2006年02月15日

[薛/子]子(ニエズ)第十六集 結婚 前半

兄貴にぼこぼこにされたラオシュウはアチンとシャオユイに付き添われ病院で手当てを受けた。「少し我慢しなさい。男だろう。このくらいの傷でそんな大声を出して。メンツをなくして恥ずかしくないか」
シャオユイはラオシュウに手厳しく言った「当然の報いだよ。引っ越したらと言うのに聞かないんだもの。あんな所にいたら奴隷と一緒だよ」
ラオシュウは「仕方ないよ。小さい頃から僕はウーヤーと一緒にいさせられたんだもの」
医者は「君のその手は骨折している。何日かは動かしてはならんよ。炎症止めを出しておくからな」と言って隣室へ行った。

壁にかけられた額を眺めていたアチンがシャオユイを呼んだ。「見てごらん」「何をさ」「これはあの林さんが探しているウー・チュンフイじゃないのか」それを見たシャオユイは叫んだ「ウー・チュンフイ!先生!先生はウー・チュンフイですか」「写真の上に書いてあるよ」「では林さんという人を知っていますか」「どこの林さんだね」「林茂雄」「林茂雄」「30年前のことです。あなたが台北帝大医学院にいた頃の同級生です」「勿論、知っているとも。彼は今どこにいるのだね。元気なのかね」「元気です。彼は今台湾に戻って来たばかりでずっとあなたを探しています。僕が探しあててしまうなんて」

林さんは会社で身の回りを片付けて箱につめているところだった。
「林さん」「シャオユイ。いい所へ来た。上のほうにあるバインダーを取ってくれないか」小柄な林さんは背の高いシャオユイに頼んだ。「ええ。林さん、何をしていたのですか」「本社から昨夜電話があったのだ。大阪支部に問題が起きたというのだよ。私に早く戻ってきて処理をしてくれと言うのだ」「今日すぐに行ってしまうの」「馬鹿な子だな。秘書に飛行機のチケットを取ってもらわないといかんのだよ」しゅんとなったシャオユイを見て林さんは優しく言った「心配しないで。何もかも終わったわけではないよ」「でも僕あなたと別れるのが辛いのです」「私も君とは別れたくないが、東京に君を連れてはいけない・・・」「いいんです。林さん。言われなくても僕にはわかります。あなたはいつかまた戻ってきてくれると」「会社に言っておこう。台湾での任務は私は遂行したと。すぐには来れないだろうが」「でもあなたは自分で戻って来れますよ。休暇かその他のことで。そうでしょ」「ここの会社での君の条件をよくしておくよ。社長には言っておいた。君を彼の助手にしてくれと。給料もよくなる。そして君への学費を期日どおりに送るよ」「林さん、ありがとう」
林さんは再び片付け始めた「そうだ、シャオユイ。君は先刻慌てて駆け込んできたね。どうしたのだね」「そうだ。とても大切なことなんです。忘れてしまうとこだった。林さん、僕はあなたのウー・チュンフイを見つけました」林さんは、はっとして深く頷いた。

ラオシュウの兄・ウーヤーが渋い顔をしている所へ、楊教頭はラオシュウを連れて戻ってきた「ウーヤー兄さん、もう怒らんでくれ。彼はもう解っているから」ウーヤーは噛み付いた「何を解ったんだ。奴がどんな面倒をかけたかあんたにわかるのか」「ええ、彼女はもう逃げてしまった。あなたは彼を打ち殺すことはないでしょう。ほら、あなたが打った所がこんなに痛ましいですよ。」ラオシュウは兄に言った「ごめんなさい」「解ったよ」
師匠は急いで言った「よしほら部屋へ戻って。炎症止めを飲むんだぞ。ウーヤー。ラオシュウは何にしたって君のただ一人の兄弟だ。彼がもし間違った事をしても教え諭すだけでいいだろう。どうしてあんなになるまでぶつんだ」「あんたの話は終わったのか。よその家のことにつまらぬおせっかいを焼くのが好きなのか」
が、楊教頭が帰るとウーヤーは神妙になってラオシュウの様子を伺いに行った「ラオシュウ、降りて来い。ラオシュウ。眠ったのか?」慌てて天上の小部屋でラオシュウが寝たふりをする「晩飯は食ったか」ウーヤーは鶏肉をラオシュウの部屋の隅に置いていった。

学校にシャオユイとアチンは林さんを連れてきていた。
シャオユイは小柄な林さんに帽子を被らせてあげた「緊張しないで」
アチンが「シャオユイ、ウーさんがきたよ」「ウー先生」
林さんが振り向くと学校の廊下を通ってウー・チュンフイがゆっくりと歩いて来ているのだった。林さんの顔が明るくなる「チュンフイ」「君だ。お久し振り。離れてどのくらいたつんだろう」「30年だよ。私はずっと君を探していたんだ」「会うことができてとてもうれしい」「私もだよ」2人は手を取り合った。

2人は渡り廊下に腰掛けた。林さんが口を開く「そうだ、あの時、君は南洋へ行ったんだね。さぞ辛かったろう」「うん。今、話すのは簡単だが。しかし数十年たつのか。いつも私が当時を思い出すのはフィリピンの山の中の閉じ込められた2ヶ月だ。マラリアになってしまって。いつ死んでもおかしくなかったよ。いつもおびえてばかりだった。きみは大陸の東北だったね。きっと辛かったろうな」「あそこは氷と雪に閉ざされた場所だ。こことは全く違う。当初私は長春にいたよ。寒くて耳が落ちそうだった。足はしもやけだらけだった。少しもあるけなかったよ」「君はそこで奥さんと知り合ったんだね」「そうなんだ。彼女は望んで看護婦となったんだ。私は医官だった。そして寒さのために風邪をひいて彼女に面倒を見てもらったのだよ。終戦後、私達は一緒に東京へ行って結婚し、家を構えたんだ」「君はどのくらい東京にいたの」「そうだな。結婚してから何人かの友達と薬工場を起こしてようやく今の規模になったんだ。そしてやっと戻ってきたんだよ」「実際、私も東京に住んでいたんだ。20年くらい前だろうか。杜教授が奨学金を申請してくれて日本帝大医学院で研究をしていたんだ。私は春日に2年と少し住んでいたんだ」「春日と神田か。そう遠くはないね。思いもよらなかった。私達はかつて一つの場所に2年以上生活していたんだね。一度も会わなかった」
2人は互いの家族について聞きあった。林さんには息子と娘がいるが、ウー・チュンフイは独身だった。
「学生の頃は女の子が君を追いかけたものなのに。きっと理想が高いのだな」「若い頃か。まるで昨日のことのようだ。思いもしなかった。瞬く間にもう30年か」「そうだ、私も思いもよらなかった。生きている間にまた会えるとは」
2人は校舎へ入った「君は覚えているかい。僕達はこの教室で山田先生からドイツ語を学んだことを」「勿論、覚えているさ。あの時、君は山田先生の影響で口を開くたびにマルクスと言っていたね。社会主義によって台湾を救うというんだ」「君の記憶力は若い頃と同じだな。全く変わらない。君は小さいときからずっと成績はトップだった」
ウー・チュンフイは「我々はまるで蟻のように休まず生きてきた。しかしとても幸運だった。・・・もう遅くなった。診療所へ戻らなきゃいけない」「一緒に飯でも食わないか」「いや、あまり遅くなったら患者さんに申し訳ない」「そうか。じゃ車で送ろう」「いやすぐ近くだ」林さんは「これは私の名刺だ。いつでも連絡してくれ。日本に来る事があったら、またゆっくり飲もう」「じゃ行くよ。身体を大切に」「君もね」
一旦行きかけたウー・チュンフイは立ち止まった「知ってるかい。私が南洋にいた頃、さんざんに苦しみを舐めた。何が私を支えたのか。私達のあの頃の夢だったんだ。いつも私が思っていたのは、戦争が終われば、君と僕とで一緒に日本で勉強をして台湾に戻り、医院を開く。救世の理想だ。私の心の中にはいつもあった。私達の夢はかなわなかった。でもこの一生で君、林茂雄をこの親友を忘れた事はない」ウーさんは礼をした。林さんも礼を返した。
そして2人は別れた。子供のように泣く林さんをシャオユイは抱きしめた。

アチンは思う「二人を見ていると30余年別れていた親友が、得意然としていた少年だった頃から白髪交じりになった今まで二人は確かに夢を築いていたのだ」


posted by フェイユイ at 22:46| Comment(0) | TrackBack(0) | [薛/子]子(ニエズ) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

「アラバマ物語 To Kill A Mockinbird」グレゴリー・ペック(BlogPet)

そういえば、フェイユイが
アメリカ映画誕生100年を記念して横領と悪役がそれぞれ50人選ばれた時、横領の第1位となったのがこのアティカス・フィンチなのだ。
とか思ってるよ。

*このエントリは、BlogPet(ブログペット)の「じえるん」が書きました。
posted by フェイユイ at 09:11| Comment(1) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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