2006年02月26日

[薛/子]子(ニエズ)第十九集 成長 後半

老爺子はいつものように孤児院へ出かけようとしていた。
「老爺子」アチンは老爺子にマフラーをかけてやった。「シャオユイはもう行ったのかい」「ええ。凄くあわただしく行ってしまったので、あなたに言うのが遅れました」「あの子は一所懸命に父親を探すのだね。立派な心がけだよ。本当にあの子の望みがかなうように神様に祈るよ」
アチンは老爺子を気遣いながらつきそった。

孤児院で老爺子は子供達と一緒に鬼ごっこをして遊んだ。明るく笑う子供達。それを見守るアチンと孤児院の先生も微笑んだ。
「子供達、おじいちゃんは疲れたよ。ちょっと休ませてくれ。自分たちで遊んでごらん」
老爺子はアチンと木の下の椅子に座って休んだ「アチン。この子達はなんと可愛いのだろう」
笑いながら遊ぶ子供達を見て老爺子とアチンは心がなごんだ。
2人は院の礼拝堂へ入った。
「10年前、私は霊光孤児院を知ったのだよ。アウェイが死んで間もなく、私は心臓病になり栄民医院に入院した。もう少しで生命を失うところだった。退院後、一年たっても私は家に閉じこもり、滅多に外出しなかった。アウェイの死は私に生活のはりをなくした。全ての苦楽に対して無関心になり少しも心を動かされなかった。10年前、大晦日の前の晩に私は台大医院で外来治療が終わり、新公園を横切ろうとした。蓮の池辺りで私は泣き声を聞いた。東屋から聞こえてくるのだ。私はまだ覚えている。あの夜は寒かった。空は曇って寒々としていた。公園の中は誰もいなかった。
ただ泣き声だけが途切れてはまた聞こえた。とても荒んだ泣き方だった。寒い風と冷たい雨の中、深く心を突き刺した。まるで大きな苦しみを受けているようだった。
それは若い青年であった。彼は寒い冬の夜に新公園の林の中で一人座り込んで泣いているのだった。
「きみ、きみは年も若いのに、何故そんなに泣いているのだね」老爺子がそっと髪に触れようとすると青年は飛びのいて叫んだ「胸が痛むんだ!とても」「どうして一人でここにいるんだね。君の家はどこかね」青年はまた獣のように叫ぶ「余計なお世話だ。ここが俺の家なんだ」「こんなに寒いのに。凍えてしまって病気になるよ。行こう。私と帰ろう」

彼は多分幾晩も眠ってなかったのだろう。一杯の熱い牛乳ものみ干さないうちに彼は疲れて眠ってしまった。服すら脱がなかった。私はしげしげと彼を眺めた。今まで見たことのない顔だった。彼はそれほど貧しく不真面目な不吉な神の顔をしていた。突然、私はどうしていいか解らなくなった。彼に対して意外にも限りない哀れみが生じたのだ。

二日目の午後に彼はやっと目を覚ました。その日は大晦日だった。もともと私は正月を祝うと言う気持ちがなかったが、彼が原因で私は呉さんに特別に正月料理を作らせた。彼と大晦日のご馳走を食べた。思いもよらなかったがそれが彼のこの世の最後の晩餐だったのだ。
「さあ、もっと食べなさい」「ありがとう。俺、今までこんなうまい大晦日のご馳走を食べた事がないよ。以前、俺達の孤児院ではクリスマスだけだったんだ。俺達は旧暦だったけど」「孤児院だって」「中和の霊光孤児院だよ。俺は小さい頃あそこで育ったんだ」「君は何て名前なの」彼はちょっとためらった「アフォン。龍鳳(ロンフォン)のアフォンだよ」

老爺子はアチンに言った「彼がアフォンだったのだ。あの子の身の上はすなわち奇異でありまた荒れ果てていた。君は公園で聞いたはずだ」「聞きました。ただ、老爺子が彼の面倒を見たとは思いもよりませんでした」「とても不思議なのだ、アフォンと言う子は。私の家にいたのはほんの短い間だったのだが、私は彼に特殊な感情と関心を持った。彼があのような非業の死を遂げ私は大きな衝撃を受けた。哀憐の情が湧き上がった。アウェイが死んだ後、私の干上がった心がまるで消えていた火が再び燃え上がるかのように、生への望みが燃え出したのだ。そして私は大きな願いを持ったのだ。私が生きている間、このような頼る者のない子供たちの面倒を見ていこうと」

大晦日の晩、アフォンは私の家から出て行った。外では正月を祝う花火の音が響いていた。
「アフォン、君がもしどこにも行く場所がないのならここにしばらくいてもいいのだよ」「ありがとう、フーさん。俺行かなきゃ。公園で俺を待っている人がいるんだ」「それはどんな人だね」「彼は・・・彼は俺の好きな人なんだ。ただ、一緒にはいられないんだよ」「君の好きな人。なぜ一緒にいられないのだね」「俺が野良犬だから。小さい頃から逃げ出すのが好きなんだ。縛られんのがダメなんだよ。俺達の公園の園丁のグオさんが言っていた、俺の血の中には野生が入ってるって。台風や地震と同じなんだってさ。俺は降伏ができないんだ」「それならなぜ彼に会いに行くんだね」「何故って、俺は彼にずっと会っていない。でなけりゃまた、俺は来世もまたダメなのかと心配になっちまう。俺は今夜彼に会うよ。大晦日で俺達の関係を終わらせる。すべき事の全てを彼に返す。これで俺も心残りがない。ありがとうございます、フーさん」「いいや」アフォンは借りていた上着を脱いだ「これ」「寒いから着ていきなさい」「いいんだ」「着ていきなさい」「いらないんだ」「そうか」

アフォンがロンズに再会したあの大晦日の晩。激しい雨の中。
「俺の一生はどうしようもなかった。来世ではいい家に生まれ変わるよ。またあんたは答えてくれるかい」「じゃ君は僕の心を受け取らないというのか」「俺の心は。あんたはそれが欲しいのか。持っていけよ、持っていけよ、持っていけ!」激しくアフォンが叫びロンズに飛びかかったその時、ロンズはアフォンの胸をナイフで刺した。
血が流れアフォンの身体は崩れ落ちた。アフォンはロンズの腕に抱かれて死んだ。雨が2人の身体を打ちのめした。

アチンはその話をロンズに言った。「アフォンは本当に老爺子の言うとおりだったのか」「それで僕はやって来たんです。もし僕の考えている事が間違いでなければアフォンは本当にあなたを愛していた。そしてあなたのために生命を投げ出すつもりだった。如何なる心残りも怨恨もない。・・・あなたも同じだ。どのようにしてこの10年が過ぎたとしてもあなたはすでにあなたの罪を贖うべき代価を支払った。また過ぎ去った影の中に留まる必要はないんですよ」「アチン、君は本当に変わったね。」「そうかな」「君は成長したね。とても成熟したんだ」「何も変わらないと思うけど」「いいんだ。僕は君にお礼を言いたい。この件で君に頼みたい事がある」「何?」「今日帰ったら、フーさんに話してくれないか。ワン・クイロンが戻ったのでどうしてもお話したい事があると」「ワンさん、あなたもフー老爺子を知っているの」「彼と僕の父は古い知り合いなんだ。抗日の時、彼らは五戦区にいた。フーおじは僕の成長を見ているんだ」

老爺子の家にロンズがやって来た。
老爺子とロンズは久し振りの再会を喜び合った。老爺子が長い間ロンズが外国にいたことをねぎらうと、ロンズは老爺子に母親が亡くなった時も父が帰国を許さなかった事を訴えた。
「クイロン、君の父も悩みがあったのだ」「解っています。私がこんな不吉な者になってしまった。私も解っています。私は父の一生の英名を全て壊し迷惑をかけてしまった」「「君は解るべきだ。君の父親は一般の人ではない。彼は国家に対して功績がある。彼の社会での地位は高いのだ。勿論多くの考えることもあるだろうが、彼のことも考えてやらねばならないよ」
「私はアメリカで名前を変えて10年さまよっていたのです。私の父が私が出て行く間際に言った言葉のためです。私がこの世にいる限り、戻る事は許さん、と。彼の言葉は大変重く呪文のようでした。深々と私の中に刻まれ、いつでも私を呼び起こしました。私は父の一生の最大の恥辱なのです。彼の臨終にすら私と会うのを許しませんでした。死後の葬礼にすら私は参加できなかったのです」「葬儀に私は行ったよ。国葬だった。関係者は皆揃っていた」「親戚にそう聞きました。僕はずっと墓参りにも行けませんでした。時が過ぎてやっと親戚達と行ったのです。私はその盛られた土の上に一粒の涙もこぼしませんでした。親戚達はそんな私をきっと軽蔑していたのでしょう。僕がその時どう思っていたのか。僕はその土を掘り起こし父を抱きしめ、三日三晩泣きたかった。彼はとうとう私を許してくれなかった。私は逃亡犯だった。10年間摩天楼の下の鼠のように生きてきたのは私が背負った彼の呪文を解き放って欲しかったからです。彼は永久に僕を呪い許してくれないのです」「君はそんなことを父親に言うのか。あまりに不公平ではないか」「違うのですか。まさかそうではないと言うのですか。父は冷酷です」「君は父上を咎めるだけか。君は考えないのか。彼が君のためにどんな罪を受けたのか」「僕がどうして考えた事がないというのですか。僕がこんな事をしたのはなぜか。僕はただ希望するのです。彼が僕に一つの機会を与えて欲しいと。僕に補わせて欲しいのです」「何と気安く言うのだ。君の父親が感じた苦しみはそんなに簡単に補えると思っているのか」
老爺子は我が子アウェイと自分のことを思っていたのだろう。その言葉は切なく響いた。
「君の父親が重病の時、見舞ったよ。彼の髪は真っ白になり、勇猛果敢な目は暗く沈んでいた。まるで長い間、煉獄で過ごす死刑囚そのものだった」「おじさん、父はあなたに僕の事を何か言いましたか」「いいや。彼は今まで私に君の事を言った事はない。私達はいつもの話をしただけだ。ただ私には解ったよ。彼の苦しみは決して君のもとにあるのではない。この何年か君は外国で苦しみを舐めた。苦しかったのは君一人だと思うか。この何年か君の父も君のために君以上に苦しんだのだ」「しかしおじさん、なぜ父は臨終の時も僕に会ってくれなかったのですか」「君に会うのに忍びなかった。目を閉じてさえ君に会うのに耐え切れなかったのだよ」ロンズは止めどもなく涙を流した「クイロン」老爺子はロンズの肩を抱いて泣いた。
そんな2人を見てアチンもまた自分の父を思いだしていた。

アチンは庭でハーモニカを吹いた。寂しげにハーモニカを吹くアチンの後姿を老爺子は見つめて考えた。

老爺子はバスに乗ってある町に下りた。そこはアチンの故郷だった。杖をつきながら老爺子はアチンの家へ向かった。

原作:白先勇 監督:曹瑞原 出演:柯俊雄(李父)柯淑勤(李母)范植偉(李青)張捷(幼年李青)楊祐寧(趙英)金勤(小玉)阿鳳(馬志翔)龍子(トゥオ・ゾンファ)楊教頭(丁強)呉敏(張孝全)老鼠(呉懐中)林義雄(林茂雄)李昆(老周)


posted by フェイユイ at 19:49| Comment(0) | TrackBack(0) | [薛/子]子(ニエズ) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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