2006年06月17日

「ビハインド・ザ・サン」ウォルター・サレス

ザ・サン.gif

映画を観終わって安堵を覚えた。泣きたくなるような素晴らしい結末だった。希望を感じさせてくれた。

1910年のブラジル。荒涼とした土地を争うブレヴィス家とフェレイラ家は代々に渡って互いの血を奪い合う事を繰り返してきた。終わりのない怒りと哀しみ。
そしてまたブレヴィス家の長男を殺した復讐を果たす時がきたのだ。

青空に翻る血のついたシャツ。その場面が印象に残る。その血が黄色く変化した時、復讐を果たさねばならないと、父親は次男であるトーニョに「義務」を果たせと銃を渡す。ブレヴィス家の生活は苦しい。父母とトーニョ、弟の4人で収穫したサトウキビを砂糖にして僅かな金を得るのだ。父親は厳格で受け継いだ少ない土地と名誉に固執している。母親はそれに従うのみ。20歳のトーニョも父親の命令で従順に行動するだけだ。

だが幼い弟はそんな家族に疑問を持つ。弟には何故か名前がない。「坊や」と呼ばれるだけなのだ。
田舎道を通りかかった旅する大道芸の男女が坊やに本を渡す。坊やは字が読めないがそこに描かれた絵を見ながら物語を作り上げる。

神話のようでもあり、子供の作った童話のようにも思える物語なのだ。
それは「坊や」とだけ呼ばれる少年の語りから始まる為だろうか。なぜ「坊や」には名前がないのか。だが坊やは大道芸(サーカスと言われているが)の男から名前をつけてもらう。それはパクー。川魚の名前だと言う。
少年と家族が住む場所の名前は「魂の川」というのだ。だが干上がって今は水も流れていない。川魚のパクーはどこにも行けはしないのだ。そして彼らの魂はすでに干からびてしまっている。

父親に従うだけの兄トーニョに弟は言う「僕達はぐるぐる回る牛と同じだ。どこへも行けない」
さらに息子達には家の掟がある。いつまでも終わらない仇討ちの繰り返しだ。弟はトーニョに仇討ちに行かないで、と言う。彼だけが無意味さを言葉にしているのだ。だが家を受け継いできた父親にはそれは名誉を汚すことでしかない。

遠い昔の遠い世界の話と言うわけではない。何かしら自分にもこういう状況であることが思いあたらないだろうか。それは世界的な状況でもあるし、自分自身のことでもある。(私なんざ自分そのものと思っちまったよ。いや復讐劇のほうじゃないが。どこにも行けず仕事ぐるぐるの方)

厳格な家の掟から兄を救おうとした弟の決意は哀しい。だがトーニョはそれをはっきりと自覚したのだ。
復讐だと叫ぶ父親の声に振り返ることもなくトーニョは歩き出した。そして人魚に出会う為に海にたどりつくのだ。

旅人によって川魚パクーと名づけられた弟は兄を自由な海へと導く。そこに待つのは(姿は見えないが)恋をした人魚なのだ。

怖ろしい血の報復は終わったのだ。「終わったのよ、何もかも」と母親は叫び父親は動かなかった。トーニョは歩き出したのだ。

サーカスの少女クララが綱を登り空中を舞う場面がなんという美しさだろう。夢をみているようだった。
(あまりにも動きが綺麗なので驚いたがクララ役の女性フラヴィア=マルコ・アントニオは実際にサーカス団員なのだった)
また弟とトーニョがブランコで遊ぶシーンもある。同じように青空に舞うトーニョ。だけどブランコはその場所から動くわけではない。途中でブランコの綱が切れてしまう。弟が言う「トーニョは上手く飛べないんだから」

幼い少年が兄のために自らの命を犠牲にするのを観て「ほっと安心する」のは変だろうか。
だがここで一番覚醒していたのは弟だけだった。彼こそがこの物語を作り上げたのだ。
ここで兄が死ねばいつかまた自分も人を殺し殺される。弟が取った道は哀しい選択だったが間違ってはいなかった。兄もまた弟の思いを受け取った事がうれしく思える。

ウォルター・サレス監督は「モーターサイクルダイアリーズ」を撮った人だが、その主人公であるチェ・ゲバラもまたそのような人であったと思う。
(「シティ・オブ・ゴッド」の製作もやってるが)

また何と言ってもトーニョ役のロドリゴ・サントロの美貌に注目がいくと思うがまさに!
確かに苦しい題材なのであるが美貌ほどカンフル剤になるものはないのだね。まったく見惚れるばかりでありましたよ。

監督:ウォルター・サレス 出演:ロドリゴ・サントロ、ラヴィ=ラモス・ラセルダ、ホセ・デュモント、リタ・アッセマニー、ルイス=カルロス・ヴァスコンセロス、フラヴィア=マルコ・アントニオ
2001年、ブラジル
posted by フェイユイ at 22:54| Comment(2) | TrackBack(1) | 中南米 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
フェイユイさま、こんにちは。
きっとご覧になっていると思い、こちらにやって参りました。
ラストの解釈は、そういうことだったのですね・・・。
弟の決意と兄への愛を考えると、そうとしか思えませんよね。
本当に、映像も美しく、何度も思い出す映画になると思います。
ウォルター・サレス、やっぱり素晴らしいです。
TBさせていただきました。ではでは!
Posted by 真紅 at 2007年10月24日 19:39
こちらにも足を運んでいただきありがとうございます。この映画には衝撃を受けました。この年の一番好きな監督にはウォルター・サレスを選んでしまいました。私が選んでも特典はないですが(笑)
あまり有名な映画ではない気がしますが勿体ないですね。
サレス監督の考え方には強い共感を覚えます。もっと作品を観たいです。
あんまり好きになってもう一回記事を書きましたよ。短いですが。「ビハインド・ザ・サン」の幻想風景、というタイトルで。
Posted by フェイユイ at 2007年10月25日 10:16
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この世の果て、もしくは始まり〜『ビハインド・ザ・サン』
Excerpt:  BEHIND THE SUN  1910年、ブラジル。二つの家族の間で繰り返される、土地を巡る終わりなき争い。 敵対する一家への報復殺人を義務として課せられた美しい青年の運命と心..
Weblog: 真紅のthinkingdays
Tracked: 2007-10-24 19:37
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