2006年06月28日

「カランジル」ヘクトール・バベンコ

カランジル.jpg

2004年10月に観た「カランジル」を再度鑑賞した。以前観た時も凄く感じることのあった映画なのだが、その時はまだそれを文章にすることが出来ずにいた。再び挑戦してみることにしよう。

1992年、ブラジル・サンパウロの「カランジル」刑務所は4000人という収容能力の中に7500人という密集状態であった。
些細なきっかけで起こった暴動の為、機動隊がが突入して武力により鎮圧。囚人達の死者の数は111人に上った。

物語はエイズ防止の為に派遣された医師ドラウツィオ・ヴァレラによって語られる。
この犯罪者を詰め込んだ巨大なカランジルという建造物はまるで迷路のようだ。理知的な印象のあるヴァレラ医師はそこでの囚人達の生活を温厚な眼差しで観ているようだ。
だが、最初に彼らと話し合ったヴァレラは彼らが自ら起こした犯罪について全く罪の意識を持たないことに苛立ちを覚えてもいる。そして彼らのそういった性癖については関わらないと決めてヴァレラ医師は次第に彼らの生活に入り込んでいく。
彼らの生活は不思議なほど自由にも見える。塀の中だけとはいえ、自由に歩き遊び楽しんでいるかのようだ。麻薬が売買され、男だけの世界であっても女装した男達がそういった性の不満を解消してくれるのが当たり前になっている。従ってエイズの蔓延が酷く(コンドーム推奨の為のコンサートが行われる。女性歌手がやって来て丁寧にコンドームの使い方を教えてくれるのだ)ヴァレラ医師の仕事の一つはエイズ診断である。
刑務所内には信心深いものも多い。夜の闇の中、所内でマリア像に灯をともしているのが美しい。ヴァレラ医師が夜の各房のざわめきを覗き込むと一部屋にたくさんのテレビを置き各自で楽しんでいる者たち。部屋で煮炊きしている者、など様々に暮らしているのだ。
生活がマンネリであり出世などを望まなければここで暮らしていくのも可能ではないかと錯覚してしまう。だが、彼らの本質はやはり犯罪者である、ということなのだ。ここには彼らなりの秩序があるがそれを乱すものは力によって封じ込められてしまう。
これは未公開場面の中にあったものだが、ここでは「強姦野郎」というのは最も忌むべき存在であるらしい。これはちょっと驚きだった。女性に対して暴力を振るうことはリンチに価するらしい。(日本で強姦野郎だからと言ってリンチを受けるだろうか?ブラジル男というのはそういうものなんだろうか?)少女を強姦した犯人は同じ房の男達によって身体に電気を流された上「少女の苦しみを受けろ」と言われ強姦(勿論カマを掘られたわけね)された。ラストの惨殺シーンでも女装の男が「女には暴力を振るえなかったから助かったのよ」というセリフがある。もしそういうものならブラジルの男は本当に男らしいんではないか?(信じすぎ?)

そして映画中で微笑ましいのがその女装男(わお!!あの美青年・ロドリゴ・サントロではないか。「ビハインド・ザ・サン」の後に続けて観てしまうとまるであの後この刑務所に入ってこういう状況になってしまったかのように思えるではないか、涙)レディとセン・シャンシの恋物語、そして結婚式だ。
エイズの危機も警官達の突入の時も彼らは互いを信じあって手を取り合っている。出獄しても結婚生活を続けるのだという。幸多かれと祈る。
ロドリゴ・サントロが目的で観てしまう人もいるだろう。女装をしていると背が高く逞しいのが強調されるものだ。しかし尚且つ綺麗な人である。おんなっぷりも申し分ない。

お定まりのフットボールの試合があり、家族や友人、恋人が集まってゆっくり会談(あるいはセックスも)するのを許される日も用意されている。
しかし刑務所での平和を満喫できるのも約束されたことではないのだろうか。
下着一つの些細な揉め事から囚人達の喧嘩が始まり、暴動となる。こうなったら、悪党達は収まらないのだ、と言う。戦争が始まった、と手作りのナイフを持ち暴れだす。警察が動き、刑務所所長の説得も空しく所内に警察が突入し丸腰の囚人達を次々と銃殺していくのだ。殺戮、と言っていい。
囚人達の弁とはいえ、警察の中には冗談のように殺して行く者もいたらしい。だがそれは神のみぞ知る、だ。

騒ぎが収まり後には血の海とそこに横たわる囚人達の死体。生き残ったものは全裸になって庭に整列させられた。これが上の写真になる。裸の中に残されたサッカーのゴールポストが何かを象徴しているのだろうか。

監督ヘクトール・バベンコは憎むべき犯罪者たちが群れる刑務所の生活とは言え、非常に愛情を持ってある意味では理想郷と錯覚してしまいそうな、少なくとも一種の集団生活者達のような目線で彼らの生活を描いているように思えてしまう。
だがやはりそれは幻でしかないのだろう。
様々な理由で犯した事とはいえそれは犯罪であり、彼らが暮らしているのは危うい均衡の上に置かれた仮の住まいでしかない。

囚人の一人が熱気球を飛ばす事を趣味にしている。狭い刑務所の中庭から飛び上がろうとする紙製の美しい熱気球。
だが上空に上がる前にそれは燃え尽き落ちてしまう。彼らの運命を思わせる儚い夢のようである。

監督・製作・脚本:ヘクトール・バベンコ 出演:ルイス・カルロス・ヴァスコンセロス/ミウトン・ゴンサウヴェス/アイルトン・グラーサ/ロドリゴ・サントロ 2003年ブラジル
posted by フェイユイ at 22:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 中南米 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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