2005年03月27日

「コースト・ガード」(海岸線)

海岸線.jpg
コーストガード.jpg
ひどく辛い映画、苦しい90分だった。今まで見てきたキム・ギドク監督の映画にはないこの激しい憎悪は何だろう。他の映画で表現されていた寓話的なものも思わず笑ってしまうようなユーモアもなく、あの溢れるようなイマジネーション、魅入ってしまう美しい色彩などもこの映画には全くないのだ。(わずかにいつもの水と魚による心情表現、後半出てくる歪んだ視界によって表される精神の歪みだろうか)
きっとキム・ギドク監督にとってこの映画は他のものとは違う生の自分だからなのではないか。これを見たら、ギドク監督にとっていかに軍隊が憎むべき存在だったのか、ということだけが恐ろしいほど伝わってくる。それは他の映画で表現されていた批判とはかけ離れた激しさだ。
映画はいつもの意味をこめた表現などでなくただストレートに怒りと悲しみともどかしさを訴えている。
その苦しみを抱えた主人公カンを演じるのが大スターであるチャン・ドンゴンだ。だが、この役は決してスターが演じるような華やかなヒーロー像ではない。民間人に惨めに殴られ、自分の感情もコントロールできない哀れな存在だ。

主人公カン上等兵は 南北軍事境界線の海岸を警備していた夜、立ち入り禁止区域で逢引をしていた民間人をスパイと間違い、射殺してしまう。男はばらばらになって死に、女は気がふれてしまった。カン上等兵は軍からは任務を遂行したと表彰され、殺された男の家族や仲間から激しい怒りをぶつけられる。そしてカン上等兵自身少しずつ狂っていってしまうのだ。

「春夏秋冬そして春」でキム・ギドク監督は「何かを得るために何かを失わねばならない」ということをいつも訴えている、と私は書いたのだが、このしっぺ返しはあまりにも悲惨であろう。体を鍛え、軍の規律を守り、忠実に不審者を射殺したカン上等兵が得た褒美と失った心の平安。
この映画を見たものはみなやりきれない空しさだけを感じるのではないだろうか。そしてそんな感想を持ってしまうような軍隊に関する映画をキム・ギドク監督は作ってしまった。
軍隊を持つ国である韓国としてこの映画はどう評価されるのか。敵が攻めてきて狂ったのではない。自分たちのなかだけで異常となってしまったのだ。その異常さはさらに悲しいことに恋人を撃ち殺され気がふれた女の身にも襲い掛かってくる。

キム・ギドク監督の凄まじい憤りをそのまま感じる映画だった。
posted by フェイユイ at 22:04| Comment(2) | TrackBack(2) | キム・ギドク | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。約1年前に「悪い男」を観て、ギドク監督にはまりました。
以下「春夏秋冬〜」「青い門」「コーストガード」「サマリア」の順に観ました。
映画館で観ることにかだわるので、レンタルは「青い門」だけ。来週やっと「受取人不明」を観に行きます。今の段階で順位はつけられませんが、私は結構「コースト」ポイント高いですよ。色彩もグラフィカルなカメラワークもユーモアも感じます。ラストシーンのいつもの引きのカメラが捉えたモノ・・一緒に観た友人は愚かにも気づきませんでした。
ギドク氏の作品をこんなに語っているサイトを見たのは初めてです。又拝見させて頂きます。失礼致しました。
Posted by みん at 2005年07月02日 21:27
はじめまして、みんさん。私は映画館にいけない状況にいるので、みんさんのように映画館でキム・ギドクを観れることはうらやましい限りです。
「コーストガード」この時はすごくショックでした。でもキム・ギドクはこの映画ではあえてショックを感じて欲しいと考えて作っているのだと思いました。
キム・ギドクには激しいショックを与えられることばかりで夢中で全作品を見続けてしまいました。この「コーストガード」も含めまた見直していきたいなと思ってます。
これからもよろしくお願いします。
Posted by フェイユイ at 2005年07月02日 22:35
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コースト・ガード
Excerpt: 監督:キム・ギドク  出演:チャン・ドンゴン ユ・ヘジン  公式サイト     7点 救いのないやるせなさが染みる、ギドクの世界    海岸警備隊の海兵隊員カン上等兵..
Weblog: シネまだん
Tracked: 2005-05-27 18:56

映画「コースト・ガード」
Excerpt: ?エスピーオー コースト・ガード    韓流四天王の一人、「ブラザーフッド」のチャン・ドンゴン主演、そして「春夏秋冬そして春」のキム・ギドク監督の作品。  全編に重い雰囲気が漂うのは、..
Weblog: ある在日コリアンの位牌
Tracked: 2005-10-16 22:52
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