2005年07月31日

「愛の神、Eros(エロス)」ウォン・カーウァイ

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「愛の神、エロス (Eros : 愛神)」
何と言ってもチャン・チェンが美しいのだ。コン・リーの美貌はもう何度も讃えているが、チャン・チェンがこんなに繊細な美しさを持っていたとは。
いつもの如くウォン・カーウァイの背景の魔力。闇の中に紅い灯がともっている。研ぎ澄まされたようなチャン・チェンの思いつめた顔だけを映している。声だけしか聞こえない女との会話。女は病気のようだ。「初めて会った日を覚えている?私の手を覚えている?」妙な質問だ。だが、それが何の意味を持つのか次の場面で知る。
仕立て屋になったばかりのチャン(チャン・チェン)は師匠に言いつけられ上客である高級娼婦のホア(コン・リー)の家を訪れる。ちょうど客を迎えていたホアの部屋の隣でチャンは男女のあえぎ声を聞きながら、終わるのを待っている。
チャンを部屋へ招きいれたホアはチャンの様子を見て、ズボンを下ろすよう命じる。羞恥で震えながらも命令を聞くチャン。美しい娼婦ホアの手はチャンの内股、そしてさらに奥のほうへと撫でていく。チャンはただホアの手の動きを耐え忍んでいた。

チャンを見上げているホアの顎がきれいだ。ホアはこの感覚を覚えておく様にチャンに命じる。そして自分の服をあなたが作るように、と。
チャンは懸命にホアの服を作り上げていく。この時、服を仕立てているチャン・チェンの横顔がレスリー・チャンのように見えてはっとする。きちんと撫で付けられた髪型のせいだろうか。顔が似ていると言うわけではないのに。

腕を上げていくチャンとは逆にホアはかつての華やかさを失いつつあった。客の足が少しずつ遠ざかっていくのをホアはつなぎとめるよう焦り出していた。そんな時もチャンはホアの服を仕立てるため、黙ってピンで補正をしているのだ(このピンを刺す行為というのは何だか色っぽいと思うのだが)ホアの身体に僅かに触れ、寄り添うように立つチャンがまた切ない。

ホアの仕事場である寝室の隣部屋でチャンはいつも待たされるのだが、その調度もまたいつも同じに整えられている。だが、来客の様子は次第にひどく変わっていく。この時、チャンはどのような気持ちで去っていく男たちを見ていたのだろうか。もしかしたら喜んではいなかったのだろうか。

落ちぶれていくホアは仕立て代も払えぬようになり師匠はチャンに催促を促す。

ホアはチャンに、旅に出るのでこれまで作らせた服を売りたいと申し出る。承諾するチャン。お礼にと酒を注ぐホア。この時、チャンの肩に何気なくホアの手がのせられ、チャンはじっと自分の肩を見つめる。二人は酒を飲み干す。このときのチャンのホアを見つめる目の凄まじいほどの色っぽさ。心が引き裂かれるような悲しい目である。

ホアはいなくなった。

再び彼女に呼ばれチャンが侘しいホテルを訪れる。ホアはチャンが結婚していないと知り、私はどう?と聞く。チャンはホアに近寄る。だがホアは服を作って欲しいと話し出す。愛人に気に入ってもらえる最後のチャンスを逃さないような綺麗な服を作りたい。そしてなけなしの金を渡そうとする。チャンは「あなたの服は取っています。それを作り直せばいい」と言う。ホアは「ではサイズを測って」チャンは「あなたの身体は知っています。ただ手で少し測るだけでいい」チャンはホアの身体に手を触れます。ホアはチャンの腕に抱かれるようにして涙を流すのだった。

チャンは丁寧にホアの服を仕立て直していく。大雨の中、仕上げてホアに会いに行くが彼女はいない。しばらくするとホアは客をとって帰ってきた。またも廊下で事が終わるのを待つチャン。仕上げた服は渡せなかった。

店に戻り彼女が切るはずだった服のすそから手を差し込むチャン。その行為だけでチャンは陶酔してしまうのだった。

彼女はついに病気で倒れてしまう。彼女の部屋代を払うチャン。チャンはホアに会う。ここで出だしのシーンに戻る。チャンの苦しい顔が映し出される。今度は何故彼がこんなに苦しんでいるのかが解っている。ホアは、うつるから会いに来ないで、と言う。大丈夫だ、とチャン。こちらに来て。最初に出会った時のことを覚えている?私を恨んだわね。いや、僕はあなたに感謝しています。私には何もないわ、でもまだ手だけは残ってる。ベッドに横たわり苦しそうなホアはそのまだ美しい手でチャンを触っていくのだった。あの時のように。チャンは長い間夢みていた感覚を再び知ったのだ。唇を触れようとするが、感染を案じて、ホアは拒絶する。二人に許されたのは互いの手の感触だけだった。

チャンは店に戻り師匠に、ホアが行ってしまった、と伝える。師匠はホアが愛人に連れられていったと思い、こうなるとは思いもよらなかった、と笑う。「そう、思いもよらなかった」それでホアさんの服は上手くできたのかい、と聞く師匠の問いにチャンは答えない。どうした?
チャンの顔が映される。

チャンの悲しい思いに涙があふれてしまう。

いつもの撮影監督クリストファー・ドイルと美術監督のウィリアム・チョンはすばらしい。
またこの映画はほぼチャン・チェンとコン・リー、そして仕立て屋の師匠ジンを演じるティン・ファンの3人なのだが、このティン・ファンさんは「ニエズ」でロンズの家の爺やをやった方ですね。




posted by フェイユイ at 23:08| Comment(6) | TrackBack(1) | 香港 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは。
未見ですが、レビュー読ませて頂きました。
ううー。早く観たいです。
チャン・チェンって、私も特にレスリーに似ているとは思ってなかったんのですが、「ブエノスアイレス」でトニーがチャンを見て、「(レスリーに)似てる」というシーンがありますよね。
監督もレスリーにちょっと似てるので、使った、みたいな事を言っていたのをどこかで見ました。
似てるのかな・・・?
Posted by hi-chan at 2005年08月02日 14:40
わ、未見なのに読んでいただいて、ありがとうございます。
いや、私もチャン・チェンがレスリーに似てるとは思ってもいませんでした。全然違う顔立ちだと思っていたので。時々。ふっと似た顔になるんですよね。
そうなんですね、カーウァイ監督も似てる、と思って使ったんですね。なんだか不思議です。物語りも確かに若きレスリーがやればぴったりのストーリーですし、監督もそう思っていらしたのでしょうねえ。もしかしたら、チャン・チェンにレスリーの魂が入り込んでいたのかもしれませんね。
Posted by フェイユイ at 2005年08月02日 17:36
はじめまして、とりです。
レスリーのお父さんは、香港で有名な仕立て屋さんだったそうです。
もしかしたら、レスリーのお父さんをモデルにしたかも。
Posted by とりさん at 2005年09月30日 19:46
はじめまして、とりさん。

そうでしたね!レスリーのお父さんがモデルなのか何とも申せませんが(笑)確かにレスリーは洋服屋さんの息子でした。
そのあたりもウォン・カーウァイの因縁めいたものを感じますね。
Posted by フェイユイ at 2005年09月30日 22:54
フェイユイさん、こんにちは。遅ればせながらTBさせていただきました。よろしくお願いします。
短編にしておくのはもったいないような素晴らしい作品だと思います。
主演の二人、素晴らしいです。
ウォン・カーウァイって真面目で誠実な人なんだなと再認識しました。
ではでは、またお邪魔します。
Posted by 真紅 at 2006年07月12日 21:46
こんにちは真紅さん、いつもありがとうございます。
自分の記事の日付を見て驚きました。もう一年近くたってしまったなんて!
短編ですがとても美しい映画でしたね!日本のCMでこれのぱくり?って感じのもありましたが(笑)それくらい印象的な映像だったということなのでしょう。
こういう素敵な短編映画というのもいいですよね。ウォン・カーウァイ監督もっと映画撮って欲しいです!

Posted by フェイユイ at 2006年07月13日 10:37
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Excerpt:  イタリアの映画作家ミケランジェロ・アントニオーニの発案による、エロスを巡る オムニバス。いづれもカンヌ映画祭受賞者である監督らによるこの作品は、トリロジー という形をとってはいるがそれぞれ独立し..
Weblog: 真紅のthinkingdays
Tracked: 2006-07-12 21:42
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