2006年05月01日

「[薛/子]子(げっし)」届く

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(これはドラマの表紙)

「[薛/子]子(げっし)」日本語版がようやく到着。
心躍らせて包みを開く。
紅い表紙に「在我men的王国裏」の言葉が。かなり分厚くて読み応えがありそうだ。
いつもの悪い癖で最初から緻密には読めない。斜め読み、拾い読みをする。
内容は何度もドラマで観たそれらの光景が思い出される。
もっと重くて固い文章なのかと思っていたのだが、読みやすい平易な文章だったのでほっとした。考えたら、しゃべっているのは若い男の子ばかりなのだから、これが当たり前なのだ。
ワン・クイロンがフー老爺子と話すところなど訳を間違えてないか心配だったがそう勘違いはしてなかったようだ。
ドラマではそういう話は出てこなかったように思うが、彼らが金庸の「射[周鳥]英雄伝」が好きなのに禁書になっていたとは、あんなに面白い小説が禁書にされてはたまらない。彼らが互いを師父・師兄弟としている所が好きだったし。

感動的な話なのに出てくる食べ物の描写が美味しそうで(笑)小説に食べ物の話が出てくるのが凄く好きなのだ。

少しずつ楽しんで読んで行きたい。
posted by フェイユイ at 18:41| Comment(6) | TrackBack(0) | [薛/子]子(ニエズ) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年04月27日

「[薛/子]子(ニエズ)」日本語訳・発刊決定

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石公さんのブログ「夜目、遠目、幕の内」で白先勇の「[薛/子]子(ニエズ)」日本語訳本・発刊決定を知りました(石公さんはそこで「[薛/子]子」の物語と共に「ブロークバックマウンテン」の素晴らしい評を書かれておられます)

ついに「ニエズ」が日本語で読めるのですね。ドラマでも日本語で観ることはできなかったのでこれでようやく「ニエズ」の世界が理解しやすくなるのではないかと思います。

私は日にちがよく解らなかったのですが、石公さんによるとアマゾンでは4月28日発行となっているそうです。
またタイトルの読み方は「ニエズ」でも「罪の子」でもなく「「[薛/子]子」=「げっし」となっていますね。

こちらでも予約できます→国書刊行会

追記:ていうか、Amazonではすでに在庫切れ、となっているから買えないのかも?
上の国書刊行会で試してくださいな。
posted by フェイユイ at 10:31| Comment(2) | TrackBack(0) | [薛/子]子(ニエズ) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年03月01日

「[薛/子]子(ニエズ)」訳を終えて

ついに「[薛/子]子(ニエズ)」の完結を迎えました。ブログを始めた時、同時に書き始めたのがこの「ニエズ」で、まだ何を書いていいか解らなかった私としては、惚れこんでしまった「ニエズ」のあらすじと感想を書いていくことで何とか体裁を保っていたような気がします。
それはそれでよかったんですが、この「素晴らしく面白い台湾のドラマ」の原作がなかなか翻訳されないし、日本で放送もないのでもう一度詳しく訳してみたくなり去年9月のブログ一周年記念に書こうと思い立ちました。ところがちょうど「天龍八部」にはまっていたので遅れ気味になり「笑傲江湖」もあったので、3月になってしまいました。半年たってしまいましたね(笑)
何度も言ってるのですが、単にストーリーだけでなく映像として凄くいいものなので他のドラマもいいですが、なんとか日本でも(スカパーとかでもいいから)放送してくれないものでしょうか。そしたら私の迷訳の穴がわかって楽しいのですが。(くれぐれも言っておきますが、このブログで書いているのは、素人の私が訳したものなのですから、鵜呑みにしてはいけませんよ)

訳もしたんでほんとに何回見たかわかりませんが、登場人物たちの魅力と共に何と面白いドラマなのでしょうか。
美形ぞろいの少年達に(可愛い子ばかりでうれしくなってしまうし)叔父様方の魅力も(そして叔父さんたちのバリエーションの豊かなことよ)
主人公アチンはもともと真面目な性格ではあるのですが、同性愛者であることで、厳格な軍人である父から追い出されてしまいます。どうしても恐ろしくて父と会うことができないアチンですがドラマの終わりでは、会えないまでも父の好きな本を家に置いていき、「息子は死んだ」と言っていた父も「アチンかい」と呼びかけて本を拾い上げる場面で親子がいつかまた同じ屋根の下で語り合う日が来る事を信じさせてくれます。

アチンのもう一つの苦しみはずっと寄り添って育った弟を自分の不注意で死なせてしまったことです。それはただ彼の病気に気づかなかったという子供なら無理からぬ事なのですが、アチンの心には深い傷となって残ります。
途中出会う聾唖の少年やリーユエの子供に対する深い愛情は弟への償いとして現されるものです。そして最後の家出少年(しかも弟役と同じ少年)を助ける事でまた老爺子から頼まれた孤児院の子供達の世話を引き受ける事でアチンの未来が見えてきます。
彼は第二のグオ老人になるのでしょう。そして弟のように愛に飢えた可哀想な子供達を救っていく運命にあるのだと思います。
(仲間の中でもいたいけなシャオミンを弟に似ているといって気にかけるのもそうですね)

少年達の物語だけでなく叔父様たちの物語もあります。
私が一番泣いてしまったのは何と言っても、林さんと親友のお医者さん・ウーさんの話。
一緒に医学を学んで診療所を開こうと夢を語った少年二人が戦争で離れ離れになり、老人になって再び出会う。しかもしばらくの間2人は近くに住んでいたのに気づかなかった。ただ辛い時期を耐え切ったのは2人で語った夢があったからだというウーさんの言葉には涙が溢れて困りました。

このドラマの原作が早く翻訳されて出版されること。日本での放送があることを切に願います。
posted by フェイユイ at 23:55| Comment(11) | TrackBack(1) | [薛/子]子(ニエズ) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

[薛/子]子(ニエズ)第二十集・完結 旅立ち 後半

アチンは急いで看護師を呼びに行った。「早く、老爺子の具合が悪いのです、すみません、早くして下さい」2人の看護師が部屋に入ってきた。「どうしたの。早く酸素をあげて」「老爺子」「ディン先生を呼んできて」一人の看護師が出て行った。

アチンの独白「フー老爺子はその時から目覚めませんでした。彼が気を失って5日目、大変な苦しみ方をして最後に行ってしまいました。私達はすぐに老爺子の遺体を自宅に迎えました。彼の身を清め経帷子を着せ棺に納めたのです。
師父の言う安楽郷のばか者どもはますます多くなりついに警察を呼ぶ事になりました。その上、老爺子がなくなったので師父はことさらに経営する気持ちがなくなってしまったのです。そこで店を閉めることに決めたのでした」

アチン達は老爺子の家で葬式の準備をした。師父は霊前でフー将軍老爺子を讃えた。将軍として戦場を駆け巡り、華々しい功績を残した事。自分のことを親子のように思ってくださった恩をいつまでも忘れないと言う事を。

夜、アチンは一人霊前で火を焚きながらロンズが老爺子に訴えた言葉を思い出していた。
「この十年間、私は逃亡犯と同じだった。父は背を向けたまま、私に放逐の命令を下したのです。ニューヨークの日も射さない摩天楼の下で逃げ回る鼠のように生きながら私は十年待ちました。私が十年待ったのは何故なのか。私はただ父が許してくれるのを待ち望んだのです。私が背負った呪いを解き放ってくれることを。
しかし彼は何も言わず逝ってしまった。フーおじ、父は明らかに私を呪っているのです。父は永遠に許してはくれないのです」
老爺子はロンズに答えた「君が父親にそんなことを言うのはあまりに不公平だ」「違うと言うのですか」「君は父親を咎めるのか。君は考えなかったのか。彼が君のためにどのくらいの罪を背負ったのか」「私がどうして考えなかったと言うのです。私がこんな事をしているのは何のためですか。私はただ彼が私に一つの機会を与えてくれるのを望んだだけです。私に償わせて欲しかったのです。彼が負った苦しみを」「君たちはたやすく言うのだな。君たちの父親が負った苦しみを簡単に償う事ができると」
アチンは部屋の中に老爺子が立っているのを見た。やがてその姿はアチンの父の姿に変わった。アチンはうつむいた。

アチンたちは老爺子の入った棺を山の上に運んだ。しとしとと雨が降る日だった。
楊教頭はしきりに老爺子に話しかけ続けた「老爺子、私達は山に登りますよ。老爺子、上へいきますよ」
途中で走って来る者がいた「止まって、ロンズだ」列が止まり、アチンも振り返った。
ロンズは花を持ってよろよろと老爺子の元へ駆け寄り激しく泣きながら跪いた。アチン達もその横に跪く。アチンは嘆き悲しむロンズの肩をそっと掴んだ。
ロンズの泣き声が山の中に響いた。

夜、アチンは父の住む家に向かった。
爆竹の音がする。アチンは父が送ってきた鍵を取り出した。
父親はすでに寝ていたが、気配を感じたのか起き上がった「アチンかい」はっとするアチン。
「アチン?アチンかい」アチンは持って来た物を急いで門の外に置くと走り出した。父親が出てきた時には、もうその姿は見えなかった。袋に入った物を取り上げて後を追ったが間に合わない。父はアチンが置いていったものを見た。それは父が昔から好きだった「三国演義」の本だった。

アチンは新公園を歩いていた。
「小蒼鷹」アチンを呼ぶ声だ「グオさん」かつてアチンが家を飛び出した時、この新公園で助けてくれた新公園の園丁と呼ばれるグオさんだ「久し振りだな、アチン。ついに今夜戻ってきたか」「ええ」「私はとっくにわかっていたよ。君たち群鳥が一羽一羽いつかここに戻ってくると。この何年かに外でもあったのだよ。安楽郷のようなものが。それから以前にもね。香檳、白夜、六福堂。開けては閉め、閉めては開け、最後には全て跡形もなくなくなった。ただ私達の巣はまだある。君たち疲れた鳥が林に帰ってくるのを待ってる。戻って休むのだ。
小蒼鷹。行こう。大勢が皆あそこにいる」
アチンは微笑み、グオ老と一緒に新公園の闇の中に入って行った。
仲間を求めてさまよう男達が集う場所へ。

新公園の東屋に少年が一人座っていた。
「君はどうして一人でここにいるの。何て名前?」「ルオ・ピン」(この少年を演じているのはアチンの弟ディーワーをやったのと同じ少年です)

2人は公園を出て歩き出した。夜中、誰もいない道。
「家はどこ?」「鶯歌」「イン・グーか。大晦日なのに家にいないのかい。一人で公園に来て何をしてるんだい。おなかがすいただろう」「うん」「僕の家には牛肉のスープが残っている。そこまで行けば僕がまた暖めてやるよ」「うん」
ルオ・ピンはしきりに鼻を鳴らす「寒いのかい。このセーターを着なよ」アチンは自分が着ているセーターを脱いでルオ・ピンに着せてあげた。
「寒いから一緒に走っていこうぜ」「うん」
2人は夜の道を走り出した「よーい、どん。一、二、一、ニ、一、二」
爆竹が鳴った。

「シャオユイ、君はうまくやってると解っているよ。僕達はみなとても君の事を喜んでいる。でもお願いだ。君は東京のおじさんたちに惑わされないで。やるべきことを忘れないで。安楽郷を閉めた後は僕は中山北路のユアンジュオでボーイをやっている。給料は悪くない。仕事も楽だ。安楽郷ができなくなって師父は大変なお金を償った。僕達は師母の前の彼を見て可哀想だった。彼はまだ責務がある。彼は桃源春に戻って手伝っているんだ。
シャオミンはまだ中風のチャンさんの面倒をみている。僕はいつもシャオミンの心配をしている。とは言え、実際は彼は一途に一人の人を愛しているのだ。ほんとうに感心するよ。
ラオシュウはシーアルドンで観光客の万年筆をスリとって捕まってしまった。ほどなく桃園補育院に送られ、感化教育を受けた。今日は大晦日の夜だ。
家々では家族が食事をしている。
君が早く願いを達成する事を望む。父母と一緒に団欒を囲める事を。心より祈る。アチン」

原作:白先勇 監督:曹瑞原 出演:柯俊雄(李父)柯淑勤(李母)范植偉(李青)張捷(幼年李青)楊祐寧(趙英)金勤(小玉)阿鳳(馬志翔)龍子(トゥオ・ゾンファ)楊教頭(丁強)呉敏(張孝全)老鼠(呉懐中)林義雄(林茂雄)李昆(老周)
posted by フェイユイ at 21:43| Comment(2) | TrackBack(1) | [薛/子]子(ニエズ) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月28日

[薛/子]子(ニエズ)第二十集・完結 旅立ち 中

アチンは老爺子の代わりに霊光孤児院を訪問した。
シスターは子供達に老爺子にあげる為の絵を描かせていた。アチンは子供達に老爺子から預かった果物を渡した。子供たちは楽しそうに老爺子の絵を描いており、アチンはそれを見てうれしくなった。

病院では老爺子の部屋に楊教頭たちが集まっていた。看護士によるともう熱も下がったと言う。食後の薬を渡された。
楊教頭は老爺子に訊ねた「老爺子、アチンは?」「彼に頼んで孤児院に行ってもらったのだ。この様子では私は長く生きられないだろうが、院の子供達には長い人生がある。彼らには頼るものがないのが心配だ」「縁起でもないことを言われる。老爺子。あなたのような善人には天の助けがあります。あなたは長生きされますとも」「自分の身体は私自身がよく解るのだ。
人は騙せんよ。ジンハイ。聞くところによると、安楽郷を罠にかけたものがいたそうだな」「何でもありません。ふざけた記者が来てでたらめな記事を書いたのですよ。それで好奇心の強いものが集まって来て騒いだのです。何日か過ぎれば、回復して正常に戻りますよ」「そうである事を祈るよ。もし安楽郷が長く維持できないのなら、あの子達はまたばらばらになってさまようのだ」「老爺子、安心してください。私がおります。絶対あの子達を辛い目にはあわせません」老爺子はラオシュウを呼んだ「ラオシュウ。君のお兄さんは君に辛くあたったな。今後、君はさらに辛い火があることだろう。私はアチンに話したよ。彼はよく君の面倒を見てくれるだろう。安心しなさい。ウー・ミン。私には解っているよ。君の生き方は苦しい。しかし君はきっと強くなると。君の命は拾い上げたものだ。第二の人生を大切にするんだよ」「わかりました。老爺子」
楊教頭は老爺子の身体を心配して間に入った「老爺子、あなたはゆっくり病気を治してください。このような話はまたの機会にされては」「今もし話さなければ、おそらく機会はないだろう。君たち2人は席をはずしてくれないか。私は君たちの師父に引継ぎをしなければならんのだ」

アチンが子供達の絵を預かって病院へ戻ってくると病室には老爺子の姿がなく代わりに楊教頭がベッドに腰をかけていた。「師父、老爺子は」「検査に行ったよ。老爺子は危ないのだ。私はディン医師に聞いた。ディン医師がいうには血圧が低くなっている。いつ事が起きるかわからん。お前はここにいなさい。一歩も離れてはならん。この幾晩か、辛いだろうが眠ってはいかん。昼間は私がラオシュウに君の仕事を代わらせる。この金を取っておけ。老爺子は私達にたくさんの事を言い付けられた。私がすぐに処理をする。それから私達の安楽郷は天地が引っくり返って収拾がつかん。私も離れられない。ここでもし何かあったら、店に電話して私を呼ぶのだ。さあ」とアチンに金を渡した。

アチンは老爺子に子供達の絵を見せた。老爺子はとても喜んだ。アチンは子供達が老爺子を心配していたと告げると「この子らは最も心配してあげなければならん。私の物を全て子供達に置いていく。アチン。私は何も持ってはいないが君に預けていく」「老爺子、そんな話はしないで。休んでください」「アチン、側に座っておくれ。私がまだはっきりしている内に話しておく。私はもう長くない。午後君らの師父が来る。私は今後の事をすでに彼に言い渡している。私は他の人を煩わしたくない。一切を簡略にする。ただし私が心配することがある。君は私としばらく過ごして私の気持ちをわかっているだろう。全てを君がやって欲しい。そして孤児院の子供達をこれから君が時間がある時に老爺子に代わって面倒を見てやってくれ」「必ずやりますよ。老爺子」「この二晩、私の心はとても不安定だった。目を閉じるとアウェイが見える。彼はとても辛そうだった」「老爺子、そんなことを考えてはいけません。早く休んでください。僕がセーターを脱ぐのを手伝いましょう」「君は疑っているね。私は君のお父さんに会いに行った。彼はいい人だった。ただまだ彼の心が静まる方法はなかった。私達は短く話をしたよ。私のようなよそ者ですら大変やりきれなかった。アチン、君が家を追い出された時、必ずや心の中は多くの苦しみがあったろう。ただ私は彼の心の苦しみが解る。つまり君とアウェイは私達父親の望みだった。アチン、君の父親はとてもいい人だ。君をとても思っている。彼の口がどんな事を話すとしても彼の心は君の事を考えているのだよ。戻って彼に会うのだ。それが老爺子の最後の願いだよ」
老爺子はアチンに手を差し出し、アチンはその手を取って握りしめベッドの脇に跪いた。老爺子はうつむいたアチンの髪をそっと撫でた。

アチンの父親は家で妻とディーワーの写真の額を拭っていた。そして手紙を書いた。封の中に何かを入れた。

「水を飲みますか、老爺子」しかし老爺子は突然苦しみだした。「どうしたのです、老爺子。看護士を呼んできます」アチンは病室を飛び出した。
posted by フェイユイ at 21:39| Comment(0) | TrackBack(0) | [薛/子]子(ニエズ) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月27日

[薛/子]子(ニエズ)第二十集・完結 旅立ち 前半

老爺子はアチンの家を訪ねた。杖をつきたどり着いた時には大きく息をしていた。
家にはアチンの父親が一人本を読んでいた。

「どなたかおられますか」「誰ですか。何の用でしょうか」「私はあなたの息子さんのために来ました」途端に背を向け「私には息子はいない。間違いでしょう」「何を言われる。アチンがどんな間違いをしたとしても彼は永遠にあなたの子供だ。私を中に入れてくれませんか」「あなたは何者ですか」「私の名はフー。これが名刺です」「フー・チョンシャン。ひょっとしてあなたは・・・」老爺子が微笑むとアチンの父はさっと敬礼した。老爺子は軍隊の上官なのだった。老爺子はその手を取って握手をした。

老爺子は中に通された。壁には女性と男の子の写真が掛けられている。「尊夫人とディーワーですな。アチンが私によく話して聞かせてくれましたよ。家の中のことを」「息子はどうしてあなたの所にいるのですか。話せば長くなる。しかし彼には大変世話になっている。ここの所、私は体の調子が悪くて彼が大変よく世話をしてくれるのです。あの子の年齢には珍しい。善良で礼儀正しい。彼の父親であるあなたが威厳を持っておられたのですな」「あなたはそんな話をするためにわざわざ来られたのですか」「勿論、それだけではない。私達は軍人出身でもある。はっきり言おう。私はあなたに彼を許してやって欲しい、とお願いしに来たのです。私はよそ者だ。本来は他人の家の事に干渉すべきではない。しかし私は彼に対して忍びないのです。毎日、恥じ入っているのですよ。それであなたは・・・」「おそらくあの子があなたに来るように言ったのですな」「私はこっそり来たのです。リーさん。私の話を聞いてください。アチンは結局あなたの肉親なのです。彼は間違いを犯しました。あなたは彼を打ち、罵った。どうして許さないのですか。父子の愛は全てを帳消しにすることです」「彼が犯したのはただの間違いではない。最大の屈辱なのだ」「彼はすべきではない愚かな行為を学校で犯してしまった。しかしあなたは彼がこの道を選んだのだとは思いたくなかったのだ、どうしても」「あの子は勉強を怠けていた。十数年間、私は全力で彼の面倒を見て育てた。私は一切の望みを彼の上に置いた。あの子はなんという下劣な事をしたのだろうか。我がリー家は最大の屈辱を受けた。私は死んでも彼を許す事はできない」「あなたの感じたことはよく解る。しかしもしそれが彼の血の中にあるのなら彼がそうした事も許すべきではないか」「将軍、どうぞ、自重してください。あなたを招き入れて今まで私はあなたを私の長官として尊重しました。あなたへの遠慮でこらえてきました。しかしあなたがずっとそのような屁理屈を言われるなら、私はあなたに疑いを持つではないですか。あなたも・・・」「アチンと一緒かと。違う。私は違う。私が彼らの世界をよく理解していれば、十二年前、私は唯一の息子の尊い命を失う事はなかった。彼は前途が錦のような軍官になるはずだった。なのに軍営の部屋でアチンと同じことをやったのだ。その時の私の驚きと苦しみはあなたと比べても軽くはないはずだ。私はあなたと同じく彼を許さなかった。その上、手紙を書いた。厳格な言葉を選び、彼を叱り付けた。彼が最も脆くなり、私の支えを必要としている時にすら、彼の電話を切ってしまった。結果、私の58歳の誕生日、彼はピストルで自殺した。リーさん、我々は2人とも傷心の父親だ。しかし私はあなたより望みを絶たれている。結局あなたの息子はまだこの世の人だ。しかし私は一生心残りを抱いていくのだ。私には解る。あなたがすぐにアチンを受け入れると自分を納得させる事はできないだろう。しかし私は心からあなたにお願いしたい。彼を理解するよう、試してくれ。彼は18歳だ。すでに母親と弟を失っている。あなたはかろうじて残っている身内だ」「もう話さんでください。どうぞお帰りください」アチンの父は背中を向けてしまった「君が幾多の戦場で立てた手柄は少なくない。ただ一回の敗戦のために軍職を辞めさせられた。あなたの心はきっとバランスをとれなくなったろう。もしあなたが一生忠誠を尽くす国家があなたを頼る者のない孤臣に変えたと思うなら、あなたはまたあなたを敬っているアチンを許されることのない罪人にする事はあるまい」そう言うと老爺子は再び外へ向かって歩き出した。残されたアチンの父は忍び泣いた。

帰り道、老爺子は苦しい息をしていた。バス停に向かう途中、突然老爺子は胸を押さえ倒れてしまった。

老爺子は病院で目を覚ました。側にはアチンが付き添っていた。「老爺子、目が覚めましたか。看護師を呼んできます」「いいんだ。側に座ってくれ。私はどのくらい寝ていたのかね」「まる一日です。あなたが道端に倒れて、昏睡状態でした。何人かの心ある人があなたを見つけて送ってきてくれました。老爺子、どうして一人でロンジアン街に行ったのですか」「なんでもないよ。何時だね」「もうすぐ2時です」「私はリー院長に約束した。今日の午後、子供達の面倒を見に行くと」「焦らないで、老爺子。あなたの身体がよくなるのを待ってください。僕がまたついていきますよ」「私はもうしばらく彼らに会っていないのだ。私は安心できない。様子を見てあげなければ。アチン、君が代わりに行ってくれないか」「でも師父からあなたの面倒を見なさいと
言われているのです」「看護師がいるよ。行ってくれ霊光孤児院では絶対に私が入院したとは言わないでくれ。ただあの子達にはフーじいちゃんは何日かしたら来るからと言ってくれないか」「わかりました」「じゃその果物を持って行ってくれ」「はい。老爺子、行ってきます」出ていこうとするアチンを老爺子が引き止めた「アチン。アウェイの服は君にぴったりだな」アウェイの上着を着ていたアチンはにっこりと微笑むと部屋を出た。
廊下を医師が歩いていた「ディン先生。老爺子が目を覚ましました」ディン医師は立ち止まって側の看護師に病人の血圧を計るように言った「先生、老爺子の今度の病状はどうなんでしょうか」「正直に言うと、老爺子の病気は今回気をつけねばならない」「とても重いのですか」「彼の心臓は衰弱していくばかりなのだ。また心筋梗塞の症状もある。いつでもショックを起こしかねん。今回気を失って倒れた。幸いすぐ病院へ運ばれたがもし少しでも遅かったらとても危険だった」「じゃ老爺子は」「まだ言い難い。心電図をはかってから、もう少し病状の観察をする。しかし彼の年齢ではおそらく難しいだろう。心の準備をしていた方がいいでしょう。今から看てきましょう」
アチンはしばらく老爺子の部屋をみつめ立ち止まっていた。
posted by フェイユイ at 21:44| Comment(0) | TrackBack(0) | [薛/子]子(ニエズ) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月26日

[薛/子]子(ニエズ)第十九集 成長 後半

老爺子はいつものように孤児院へ出かけようとしていた。
「老爺子」アチンは老爺子にマフラーをかけてやった。「シャオユイはもう行ったのかい」「ええ。凄くあわただしく行ってしまったので、あなたに言うのが遅れました」「あの子は一所懸命に父親を探すのだね。立派な心がけだよ。本当にあの子の望みがかなうように神様に祈るよ」
アチンは老爺子を気遣いながらつきそった。

孤児院で老爺子は子供達と一緒に鬼ごっこをして遊んだ。明るく笑う子供達。それを見守るアチンと孤児院の先生も微笑んだ。
「子供達、おじいちゃんは疲れたよ。ちょっと休ませてくれ。自分たちで遊んでごらん」
老爺子はアチンと木の下の椅子に座って休んだ「アチン。この子達はなんと可愛いのだろう」
笑いながら遊ぶ子供達を見て老爺子とアチンは心がなごんだ。
2人は院の礼拝堂へ入った。
「10年前、私は霊光孤児院を知ったのだよ。アウェイが死んで間もなく、私は心臓病になり栄民医院に入院した。もう少しで生命を失うところだった。退院後、一年たっても私は家に閉じこもり、滅多に外出しなかった。アウェイの死は私に生活のはりをなくした。全ての苦楽に対して無関心になり少しも心を動かされなかった。10年前、大晦日の前の晩に私は台大医院で外来治療が終わり、新公園を横切ろうとした。蓮の池辺りで私は泣き声を聞いた。東屋から聞こえてくるのだ。私はまだ覚えている。あの夜は寒かった。空は曇って寒々としていた。公園の中は誰もいなかった。
ただ泣き声だけが途切れてはまた聞こえた。とても荒んだ泣き方だった。寒い風と冷たい雨の中、深く心を突き刺した。まるで大きな苦しみを受けているようだった。
それは若い青年であった。彼は寒い冬の夜に新公園の林の中で一人座り込んで泣いているのだった。
「きみ、きみは年も若いのに、何故そんなに泣いているのだね」老爺子がそっと髪に触れようとすると青年は飛びのいて叫んだ「胸が痛むんだ!とても」「どうして一人でここにいるんだね。君の家はどこかね」青年はまた獣のように叫ぶ「余計なお世話だ。ここが俺の家なんだ」「こんなに寒いのに。凍えてしまって病気になるよ。行こう。私と帰ろう」

彼は多分幾晩も眠ってなかったのだろう。一杯の熱い牛乳ものみ干さないうちに彼は疲れて眠ってしまった。服すら脱がなかった。私はしげしげと彼を眺めた。今まで見たことのない顔だった。彼はそれほど貧しく不真面目な不吉な神の顔をしていた。突然、私はどうしていいか解らなくなった。彼に対して意外にも限りない哀れみが生じたのだ。

二日目の午後に彼はやっと目を覚ました。その日は大晦日だった。もともと私は正月を祝うと言う気持ちがなかったが、彼が原因で私は呉さんに特別に正月料理を作らせた。彼と大晦日のご馳走を食べた。思いもよらなかったがそれが彼のこの世の最後の晩餐だったのだ。
「さあ、もっと食べなさい」「ありがとう。俺、今までこんなうまい大晦日のご馳走を食べた事がないよ。以前、俺達の孤児院ではクリスマスだけだったんだ。俺達は旧暦だったけど」「孤児院だって」「中和の霊光孤児院だよ。俺は小さい頃あそこで育ったんだ」「君は何て名前なの」彼はちょっとためらった「アフォン。龍鳳(ロンフォン)のアフォンだよ」

老爺子はアチンに言った「彼がアフォンだったのだ。あの子の身の上はすなわち奇異でありまた荒れ果てていた。君は公園で聞いたはずだ」「聞きました。ただ、老爺子が彼の面倒を見たとは思いもよりませんでした」「とても不思議なのだ、アフォンと言う子は。私の家にいたのはほんの短い間だったのだが、私は彼に特殊な感情と関心を持った。彼があのような非業の死を遂げ私は大きな衝撃を受けた。哀憐の情が湧き上がった。アウェイが死んだ後、私の干上がった心がまるで消えていた火が再び燃え上がるかのように、生への望みが燃え出したのだ。そして私は大きな願いを持ったのだ。私が生きている間、このような頼る者のない子供たちの面倒を見ていこうと」

大晦日の晩、アフォンは私の家から出て行った。外では正月を祝う花火の音が響いていた。
「アフォン、君がもしどこにも行く場所がないのならここにしばらくいてもいいのだよ」「ありがとう、フーさん。俺行かなきゃ。公園で俺を待っている人がいるんだ」「それはどんな人だね」「彼は・・・彼は俺の好きな人なんだ。ただ、一緒にはいられないんだよ」「君の好きな人。なぜ一緒にいられないのだね」「俺が野良犬だから。小さい頃から逃げ出すのが好きなんだ。縛られんのがダメなんだよ。俺達の公園の園丁のグオさんが言っていた、俺の血の中には野生が入ってるって。台風や地震と同じなんだってさ。俺は降伏ができないんだ」「それならなぜ彼に会いに行くんだね」「何故って、俺は彼にずっと会っていない。でなけりゃまた、俺は来世もまたダメなのかと心配になっちまう。俺は今夜彼に会うよ。大晦日で俺達の関係を終わらせる。すべき事の全てを彼に返す。これで俺も心残りがない。ありがとうございます、フーさん」「いいや」アフォンは借りていた上着を脱いだ「これ」「寒いから着ていきなさい」「いいんだ」「着ていきなさい」「いらないんだ」「そうか」

アフォンがロンズに再会したあの大晦日の晩。激しい雨の中。
「俺の一生はどうしようもなかった。来世ではいい家に生まれ変わるよ。またあんたは答えてくれるかい」「じゃ君は僕の心を受け取らないというのか」「俺の心は。あんたはそれが欲しいのか。持っていけよ、持っていけよ、持っていけ!」激しくアフォンが叫びロンズに飛びかかったその時、ロンズはアフォンの胸をナイフで刺した。
血が流れアフォンの身体は崩れ落ちた。アフォンはロンズの腕に抱かれて死んだ。雨が2人の身体を打ちのめした。

アチンはその話をロンズに言った。「アフォンは本当に老爺子の言うとおりだったのか」「それで僕はやって来たんです。もし僕の考えている事が間違いでなければアフォンは本当にあなたを愛していた。そしてあなたのために生命を投げ出すつもりだった。如何なる心残りも怨恨もない。・・・あなたも同じだ。どのようにしてこの10年が過ぎたとしてもあなたはすでにあなたの罪を贖うべき代価を支払った。また過ぎ去った影の中に留まる必要はないんですよ」「アチン、君は本当に変わったね。」「そうかな」「君は成長したね。とても成熟したんだ」「何も変わらないと思うけど」「いいんだ。僕は君にお礼を言いたい。この件で君に頼みたい事がある」「何?」「今日帰ったら、フーさんに話してくれないか。ワン・クイロンが戻ったのでどうしてもお話したい事があると」「ワンさん、あなたもフー老爺子を知っているの」「彼と僕の父は古い知り合いなんだ。抗日の時、彼らは五戦区にいた。フーおじは僕の成長を見ているんだ」

老爺子の家にロンズがやって来た。
老爺子とロンズは久し振りの再会を喜び合った。老爺子が長い間ロンズが外国にいたことをねぎらうと、ロンズは老爺子に母親が亡くなった時も父が帰国を許さなかった事を訴えた。
「クイロン、君の父も悩みがあったのだ」「解っています。私がこんな不吉な者になってしまった。私も解っています。私は父の一生の英名を全て壊し迷惑をかけてしまった」「「君は解るべきだ。君の父親は一般の人ではない。彼は国家に対して功績がある。彼の社会での地位は高いのだ。勿論多くの考えることもあるだろうが、彼のことも考えてやらねばならないよ」
「私はアメリカで名前を変えて10年さまよっていたのです。私の父が私が出て行く間際に言った言葉のためです。私がこの世にいる限り、戻る事は許さん、と。彼の言葉は大変重く呪文のようでした。深々と私の中に刻まれ、いつでも私を呼び起こしました。私は父の一生の最大の恥辱なのです。彼の臨終にすら私と会うのを許しませんでした。死後の葬礼にすら私は参加できなかったのです」「葬儀に私は行ったよ。国葬だった。関係者は皆揃っていた」「親戚にそう聞きました。僕はずっと墓参りにも行けませんでした。時が過ぎてやっと親戚達と行ったのです。私はその盛られた土の上に一粒の涙もこぼしませんでした。親戚達はそんな私をきっと軽蔑していたのでしょう。僕がその時どう思っていたのか。僕はその土を掘り起こし父を抱きしめ、三日三晩泣きたかった。彼はとうとう私を許してくれなかった。私は逃亡犯だった。10年間摩天楼の下の鼠のように生きてきたのは私が背負った彼の呪文を解き放って欲しかったからです。彼は永久に僕を呪い許してくれないのです」「君はそんなことを父親に言うのか。あまりに不公平ではないか」「違うのですか。まさかそうではないと言うのですか。父は冷酷です」「君は父上を咎めるだけか。君は考えないのか。彼が君のためにどんな罪を受けたのか」「僕がどうして考えた事がないというのですか。僕がこんな事をしたのはなぜか。僕はただ希望するのです。彼が僕に一つの機会を与えて欲しいと。僕に補わせて欲しいのです」「何と気安く言うのだ。君の父親が感じた苦しみはそんなに簡単に補えると思っているのか」
老爺子は我が子アウェイと自分のことを思っていたのだろう。その言葉は切なく響いた。
「君の父親が重病の時、見舞ったよ。彼の髪は真っ白になり、勇猛果敢な目は暗く沈んでいた。まるで長い間、煉獄で過ごす死刑囚そのものだった」「おじさん、父はあなたに僕の事を何か言いましたか」「いいや。彼は今まで私に君の事を言った事はない。私達はいつもの話をしただけだ。ただ私には解ったよ。彼の苦しみは決して君のもとにあるのではない。この何年か君は外国で苦しみを舐めた。苦しかったのは君一人だと思うか。この何年か君の父も君のために君以上に苦しんだのだ」「しかしおじさん、なぜ父は臨終の時も僕に会ってくれなかったのですか」「君に会うのに忍びなかった。目を閉じてさえ君に会うのに耐え切れなかったのだよ」ロンズは止めどもなく涙を流した「クイロン」老爺子はロンズの肩を抱いて泣いた。
そんな2人を見てアチンもまた自分の父を思いだしていた。

アチンは庭でハーモニカを吹いた。寂しげにハーモニカを吹くアチンの後姿を老爺子は見つめて考えた。

老爺子はバスに乗ってある町に下りた。そこはアチンの故郷だった。杖をつきながら老爺子はアチンの家へ向かった。

原作:白先勇 監督:曹瑞原 出演:柯俊雄(李父)柯淑勤(李母)范植偉(李青)張捷(幼年李青)楊祐寧(趙英)金勤(小玉)阿鳳(馬志翔)龍子(トゥオ・ゾンファ)楊教頭(丁強)呉敏(張孝全)老鼠(呉懐中)林義雄(林茂雄)李昆(老周)
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2006年02月25日

[薛/子]子(ニエズ)第十九集 前半

シャオユイはつぶやいた「安楽郷の幸運も続かないようだな。君達がどうするのかわからないけど、僕はもう決めている。龍王爺のツイファ号が出航スルのを待って僕は必ず行くよ。でも君は一番幸運だよ。老爺子の庇護を受けているし、何の心配もないさ」そういわれたアチンは「そうじゃないよ。僕と老爺子は仲がいいんだ。でも呉さんの脚の怪我がよくなったら悪いけどまたあそこに戻らなきゃ」シャオユイは「シャオミン。君はあの暴君について嫁になるのかい」シャオミンは黙ったままだ「お前は頑固だな。解ったよ、早く片付けようぜ」

シャオミンがチャンさんの家へ帰ると応接間が散らかっている。シャオミンが片付け始めると浴室から音がした。シャオミンが様子を見に行くとそこにはチャンさんが倒れていた。顔が引きつれたように歪んでいる「チャンさん、どうしたの」

チャンさんは入院した。妹さんが看病にやって来た。兄が自分の体を大切にしないことにグチをこぼす。「自分の身体を大切にしようとしないのだから」
そこへシャオミンが病室に入ってきた「あなたがシャオミンね。私は彼の妹です」「知ってます。僕はあなた方が一緒に写った写真を見たので」「私の兄があなたにお世話になってご迷惑をかけました」「いいえ。チャンさんはいつも僕の面倒を見てくれています。こんな事は当然です」「私は先刻彼に話したばかりなの。ずっと前からこんな風ではいけないと言っていたのよ。彼は聞かなかった。見て、今自分がどうなっているのか、病気になって他人に迷惑をかけている。ほらシャオミンがあなたにお粥を持ってきてくれたわ。ありがとう。食べるかしら」妹はチャンさんの口におかゆをぞんざいに運んだ。たちまちチャンさんはおかゆを噴出してしまう「きゃあ」おかゆが一面に散らばり妹は「まったくあなたって人は」ハンカチで辺りを拭きながらシャオミンを見て「私手を洗ってくるわ」
シャオミンはチャンさんのベッドを綺麗にしながらささやいた「妹さんは悪気はないんですよ。気にしないで。僕が食べさせてあげますから」シャオミンが食べさせるとチャンさんはこぼさず食べたが「これじゃ食べにくいんじゃないですか。位置を変えましょう」と言って食べやすいようにチャンさんの身体を持ち上げた。
妹は洗面所から戻るとシャオミンが丁寧にお粥をさましながら兄の口に運ぶのを見た。兄が自分の時とは違って美味しそうに食べているのを見た。

シャオミンと妹さんは病院の外へ出た「先に帰ってね、送れないけど」「かまいません」「これを持って」とお金の入った封筒を渡す。シャオミンが断ろうとすると「もっと必要なら私に言って。取っておいてちょうだい。恥ずかしいけどこれが妹としてできることです。彼は性格が悪いわ。あの人と付き合うのは大変でしょう。その上、あんな事になって。許してあげて」「お姉さん」「何も言わなくていいわ。私は解ってます。あなたはいい子ね。うれしいわ。あなたのようないい弟ができて」
彼女は部屋に戻った。シャオミンは切った手首の傷にそっと触れた。

シャオミンがチャンさんの看病をしている時、アチンが訪ねてきた。チャンさんの顔は動かず歪んでいる。身体も動かないようだ。
かいがいしくチャンさんの世話をするシャオミンをアチンはじっと見つめた。

シャオミンはアチンに訴えた「僕がいけないんだ。彼の身体をよく注意していなかった。数日、彼は頭が痛いと言っていたのに。よく聞いてなかった。酒を飲みすぎるとは思っていたけど。こんなに大変な事になるとは思わなかったんだ」「君のせいじゃないよ。彼自身が君の忠告を聞かなかったんだ。君がいつも責任を負う事はない。彼がこんな風になって君はどうするつもりなんだ」「ずっと面倒をみていくよ」「万が一彼が一生よくならなくてもかい」「大丈夫だよ。彼はまだ若いもの。きっとすぐによくなるよ」「君って」アチンはあきれた「彼の家族に面倒を見てもらったほうがよくないか」眠っていたチャンさんが目を開けたのをシャオミンはすぐに気づき「チャンさん。何か欲しいの。水が飲みたい?それとも具合が悪いの。看護士さんを呼んでこようか」が、チャンさんはシャオミンが優しく差し出したコップを思うように動かなくなった手で弾き飛ばした。水がベッドにこぼれた。「そんな風にしないで」チャンさんは動かない身体をもどかしく思うのか、横たわったまま発作のように激しくベッドを揺らし叩き続け泣いた。そんなチャンさんの手をシャオミンはしっかりと握りしめて涙をこぼすのだ。
アチン独白「彼らを見ていて僕は知った。僕はもうシャオミンに何も忠告すべきではないのだ。将来彼らがどんな状況になろうとかまわないのだ。シャオミンはついに彼の心からの望みを達成したのだ。シャオミンは愛する人を抱いているのだから」

シャオユイはアチンを連れてお母さんの家を訪れた。母さんは寝転んでいた。
「母さん」「ユイちゃん。おかえり」「おばさん」「よかった。夫は出て行ったところよ」「いたって怖くはないさ。母さん、僕は日本へ行くよ」「冗談を言ってるの。日本へ行くって。何時?」「あさっての朝。この前、龍王爺の話をしたよね。彼の船で行くんだよ。コックになるんだ」「船で働くのは大変よ。こんなに痩せているのに大丈夫かしら」「大丈夫。安心して。一度行くだけだよ。日本についたらすぐ逃げるのさ」「あなたって。そんなこと言って。もし逃げられなければ。日本の政府に捕まってしまったらどうするの」「大丈夫。龍王爺が段取りをつけてくれるんだ」「彼はあなたが逃げるのを知っているの?彼はあなたの船長じゃないの?」「僕は事情を真剣に話したんだ。勿論苦肉の策を施したよ。彼は僕が日本で父さんを探すのを知っている。そして僕が船を逃げ出すのを手伝ってくれるんだ。そして僕に知り合いの店の仕事を紹介してくれるんだよ」「この子ったら。何故そんな大切な話をこんな間際に話すの」「僕がもしあんまり早く話したら、あなたを捨てられなくなる。行きたくなくなる。母さん、必ず身体を大切にしてね。僕は日本へ行ったらすぐ手紙を書くよ。僕の心配はしないで」「電話にして。手紙は遅すぎるよ。電話代がもしあんまりかかったら、ここにつけるのよ」「わかった」「あなたの声を聞いたらやっと安心できるわ」「わかったよ」シャオユイのお母さんは涙をこらえて机を探り「お金、少しだけどあなたが私にくれたものよ。あなたのためにとっておいたの。持っていって少しずつ使ってね」「いらないよ。持っているって」「外に出るときはお金がいるものよ。万一何かあった時、誰があなたを助けるの」そしてまた机を探って「このネックレスは父さんが私の結婚の約束にくれたものよ。王秀子と彫ってあるわ。それと彼・中島正雄の名前よ。持って行って。もし彼を見つけたらこのネックレスを見せて。彼はあなたが解るでしょう。もし見つけ切れなかったら売りさばいてちょうだい。旅費にして帰ってくるのよ。落ちぶれてしまわないでね」「母さん、泣かないで。あなたが僕のために泣いたら、置いていけなくなる」2人は抱き合って涙にくれた。アチンは廊下でそんな2人の泣き声をじっと聞いていた。

「岬まわるの小さな船が、生まれた島が遠くになるわ。入り江の向こうで見送る人たちに別れ告げたら、涙が出たわ。島から島へと渡っていくのよ。あなたとこれから生きてく私。瀬戸は夕焼け。明日も晴れる。2人の門出、祈っているわ。2人の門出、祈っているわ」
(あの「瀬戸の花嫁」をシャオユイが歌います。2番でしょうか。歌詞が違うところがあるかも知れませんが、シャオユイはこう歌っています。何の身寄りもない若いシャオユイが日本へ行こうという決意を歌ったのです。それを思うと聞いていて涙がこぼれます。とても綺麗な唄い方でした)
安楽郷で、師父とアチン・ラオシュウ・シャオミンを前にシャオユイが「瀬戸の花嫁」を歌った。唄い終わるとアチン達が立ち上がってシャオユイに近寄り心からの友達である4人は固く抱きあうのだった。強い絆で結ばれていた仲間の一人が今、旅立とうとしているのだった。
それを楊教頭はじっと見つめていた。

翌々日、シャオユイは僕達の送迎を拒絶して一人基隆港から日本行きの船に乗った。
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2006年02月22日

[薛/子]子(ニエズ)第十八集 戻り道 後半

昼間、アチンは一人母校を訪ねた。
以前、彼を退学にした書状が張り出された壁を眺めた。そしてかつてよくやったバスケットコートに寄った。
そこに一人の少年がバスケットをしていた。アチンが近寄るとボールを放ってよこす。アチンはボールを受け取るとバスケットを始めた。フェイントをかけ、シュート。ボールを取り合い、アチンは楽しんだ。いつしかアチンはジャオインとじゃれあうようにして楽しんだバスケとを思い出した。あの頃2人は息があって次々とシュートを決めたものだ。そして彼の部屋でのときめいた想い。弟の死で泣いた時ジャオインを抱きしめキスをした事。授業中立たされ、目で笑いあった事。学校で抱き合っていたのがばれてケンカをしてしまった事。再び出会い、ジャオインが謝りながらアチンを抱きしめたあの日。
アチンは出会った少年とカキ氷を食べに行った。そこもいつもジャオインと通った店だった。
店の主人は久し振りに会ったアチンを懐かしんだ。そして相棒はどうした、と訊ねてきた。アチンは「学校を出てから忙しくて」と口ごもる。
学生服の2人組みが来たのを見てまたアチンはジャオインと自分を重ねてみる。あの頃、ジャオインとアチンは本当に仲のいい友達だった。あの頃・・・。
氷が来たとアチンを呼ぶ少年の声で我に返る「ジャオインとあなたはバスケットが凄くうまかった、と聞いてましたよ」「そうなのか」そして少年がアチンのあの時のことに触れてきたので、アチンは嫌がった。しょんぼりした様子の少年を見てアチンは謝った。少年は「大丈夫。いつも兄さんに怒鳴られてるから」「お兄さんがいるの」「うん、僕にバスケットを教えてくれた。でもあなたのようにはうまくない」

2人はカキ氷を食べ終わると蓮池のそばを歩いた。アチンは「もう2日もしたら蓮の実が取れるね」「二日もいらないよ。最近僕は朝見てるよ。一つでよかったら僕が取ってきてあげるよ」「僕の弟も以前この辺で蓮の実を取るのがとても好きだったんだ。一度、3つ取っても満足できず、無用心に池に落ちてしまった。出てきた時は全身泥だらけさ」「ちょっと待ってて」少年は池から蓮の実を取ると「あげるよ。君の弟にあげて」「僕の弟はもう亡くなったんだ。でも、ありがとう」アチンは蓮の実を受け取った。
しばらく歩き「あそこが僕の家だ」中から彼の兄らしい男が出てきて、少年に遅いと叱った。兄に引っ張られ少年はアチンを振り向いて手を振った。アチンもそれに答えた。

アチンはハーモニカを吹きながら物思いにふけった。悲しみを抑える事はできなかった。様々な事が頭をよぎって混乱した。浮かんでくるのはただ、ハーモニカを吹くディーワーの姿と父親が悲愴な面差しで母さんの遺骨のツボを供えている様子だった。

安楽郷。
シャオユイはまた龍王爺に誘われていた。シャオユイは彼が機嫌を損ねないように上手にそれをかわしていた。

店の隅ではまたチャンさんが酔いつぶれていた。シャオミンはとうとう我慢できず、チャンさんに声をかけた「飲みすぎですよ」「シャオミン、側に座ってくれ。彼が行ってしまった」「誰が」「卑しい奴さ。ドイツ人の商人とできてしまったんだ。出て行くときに私のカメラやオーディオを全部持って行った。もし私が警察に知らせたら、私と彼の関係を暴露すると言うのだ。何故こんな事を。こんなによくしてやったのに。私から巴なれて行く。何故だ」「チャンさん」「わかっている。私に対して真心を持ってくれるのはお前しかいない。お前だけが頼りなんだ。私は馬鹿だった。お前を追い出して。すまない、すまない」チャンさんはシャオミンの手をとって泣き崩れた。シャオミンは手をはずし「全て終わったんです、もう言わないで」でも結局シャオミンはアチンの所へ行った。
「アチン、助けてくれないか」「どうしたんだ」「チャンさんが酔ってしまったんで家へ送って行きたいんだ。師父には黙っててくれないか。一人で帰すのが心配だ」「君が彼の心配をするのかい。君が手首を切った時、彼は君の心配などしなかった。そんな奴にしてやることがあるかい」「そんな風に言わないで。どのみち、彼を家に送るだけだから」「自分でよく考えるんだ。またどんな状況になっても僕たちはもう助けきれないよ」「じゃ行くよ」

チャンさんを家に送っていくと彼は哀願した「シャオミン、引っ越しておいで。私に埋め合わせをさせてくれ。お前が行ってしまってから私はお前を思い始めた。あの日、お前にばったり出会ってお前が田舎へ帰ると言った。私がどんなにお前に残って欲しいと思ったか」「チャンさん。あなたが本当に僕が必要になったら、僕はきっと戻ってきます」「私は今、お前が必要なんだ。この一生涯お前が必要なんだ」「チャンさん、そんな風に言わないで」「シャオミン、私は心から話しているんだ。お前はきっと私を許してくれるね。私は約束する。もうお前を辛い目にあわせないと」チャンさんはシャオミンの顔を挟んでキスをした。そして彼の身体を抱きしめた。そしてシャオミンはとうとうチャンさんを抱きしめてしまった。

夜中、アチンは目を覚ました。服を羽織って廊下に出ると老爺子が立ちつくしていた。「どうしたのですか」「アチン、なんでもないよ。来なくていい」近寄って見ると老爺子の足元に液体が流れている。老爺子は小水を漏らしてしまったのだ。「老爺子、気にしないで。僕につかまってトイレへ行きましょう」
風呂場でアチンは老爺子の身体を拭いてあげた「年を取ったな。しくじったよ」老爺子は寂しそうに呟いた。

アチンが安楽郷に行くと不穏な空気が流れていた。
シャオユイとラオシュウが新聞を読み、側で師父が難しい顔をしている「ここに何が書いてあると思う。誰が人妖だ」「病気だよ、この記者は」「どうしたの」とアチン。シャオユイとラオシュウが読んでいた新聞をアチンとシャオミンが覗き込んだ「遊妖窟」「どうだい、そのタイトルの字がえらくでかいだろ」「先週土曜日、記者は間違ってぶつかってしまった。驚いた事に大変な場所に入り込んでしまったのだ。南京東路に隠れたバーがあった。名前は安楽郷」「これは僕達のことだ」とシャオミン「やっとわかったか。これで俺達は有名人だ」新聞には安楽郷の様子が妖しげに書かれていた。そして安楽郷のバックに映画界の大物がついていることも。
シャオユイは「台北市の男色大本営だと。でたらめいいやがって。まるで僕達のことを女郎屋のように言ってるんだ」楊教頭はすっかり参っていた「あれこれと知恵を絞って店を開いた。皆が路頭をさまよわなくてもすむ様にな。仕事もすぐに軌道に乗ったというのに。こんな事になるなどと。お前達は生まれつきさまよう運命にあるのだ。不穏な日々が身分相応なのだよ」アチンは「行き過ぎです。師父、僕達は彼らを見つけてけりをつけてきますよ」「やめるんだ。春申夕刊は手におえんのだ。ルオ・リーリーですら彼らには逆らえなかった。私らがどうして逆らえる。私達は頼れる人がいない」「盛公は」「盛公。お前は新聞を読まなかったのか。彼の名前が書いてあるも同然だ」楊教頭は新聞を見たら盛公は具合が悪くなるだろうと言い、皆に、多くの人が騒ぎに来るだろうが、どんな事があっても我慢するんだ、と言い渡した。

開店後、多くの野次馬が集まり、嫌がらせを始めた。
騒ぎ立てアチン達を指差しては笑った。客には女性も混ざっていた。
「黄色い服の子、来て。聞いたんだけどここには人妖がいるって。あんたなの」「おかま」
急にちょっかいを出されてシャオミンは盆を取り落とした「何をする。気をつけろ」助けに入ったラオシュウもさんざんにいじめられた。見ていた楊教頭、アチン、シャオユイもどうしようもない。あまりの事にラオシュウがやり返そうとした「何だ、その態度は。金を払ってるんだぞ」シャオミンはラオシュウをとめて謝った。

この様子を見ていた楊教頭は苦々しく呟いた。「我々は困難に満ちているのだ。こいつらが毎日店に来て邪魔をするなら、私達の店ももう終わりだ」

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2006年02月21日

[薛/子]子(ニエズ)第十八集 戻り道 前半

シャオミンが新公園を歩いている。だが酷く憔悴しきった様子だ。すれ違う人に「楊教頭を知りませんか」と聞いてみるがそっけない答えが返ってくるだけ。なけなしの硬貨で電話をかけてみるが誰も出てはこない。シャオミンは博物館の前にうずくまりつぶやいた「アチン、君達は一体どこにいるんだよ」

アチンとラオシュウは「安楽郷」で開店の準備をしていた。シャオユイが慌てて駆け込んでくる。アチンが「どうしたんだい、今頃やって来て」「まだ八時じゃないよ。何せっついてんの。僕は授業を受けてたんだよ」「紅い雨が降るよ。ワン・シャオユイが授業を受けるなんて」「人を見くびってるな。僕は料理の勉強をしてるんだ」「君が料理を勉強してどうするの」とラオシュウ。「一つの技を学んでいれば年を取って色香が無くなり人から求められなくなってもご飯が作れるからさ」「何言ってるんだい。早く話せよ」「解った。時期が来たら話そうと思ってたんだ。どうやら龍王爺の船で料理人を募集しているんだ」「それで船に乗ろうとしているのかい」とアチン。「君はねぎとにんにくの違いすらよく解ってないじゃないか。料理人になれるのか」「ちょっと聞きなよ。先週、龍王爺が僕に、料理人が東京で船を逃げ出した話をしたんだ。そういうことはしょっちゅうあるらしい。新宿には中華料理店があるらしいんだ。そこの社長も彼の船から逃げ出したんだよ」「君にそんなことができるのかい」「他の奴ができるんなら僕にだってできるだろう。東京に行ったら僕は誰よりも早く逃げ出すよ」「君はまだあきらめていないんだね」「僕が何故あきらめるのさ。それは僕が死んだときだよ。僕は焼けて灰になっても幽霊になるさ。僕の心は死なない。ふわふわと太平洋を渡って行くよ。林さんが僕を日本へ連れて行けなくて悲しかったよ。それで君は僕があきらめたと思っていたのか。チャンスが来たんだ。上は刀の山、下は油鍋でも怖くなんかない。ワン・シャオユイは驚かないよ。来月僕は盲腸を切るよ。龍王爺は船に乗る船員全員に盲腸を切らせているんだ。僕はもう決めた。彼が僕を船に乗せたいと思っているんだ。すぐにでも盲腸を取り出すよ」アチンは「君が行ってしまったらお母さんはどうするの」「どの道、僕はずっと彼女の側にはいないもの。もう慣れているよ。でも君達、見ててくれよ。僕は東京で大金持ちになってやるよ。僕があのもうろくジジイを探しだせるかわからないけど、きっとママに会わせてやるんだ。僕は彼女に何年か幸せな生活を送らせてやるんだ、彼女の一生が終わるまで。それが日本へ行く最大の目的だよ」「よし、早く準備しよう。でなきゃ師父がすぐに来るよ。この様子を見られたらまた怒鳴られる」そこへ何人かの客が入ってきてアチン達は急いで応対を始めた。

シャオミンは安宿で男相手に身体を売った。
疲れて眠るシャオミンに男は金を放って出て行った。売春をしてもらった金をシャオミンはぼんやりと眺めた。

安楽郷に若者が入ってきてビールを頼んだ(この若者がチェン・ボーリンです)アチンはまだ未成年だろうと言う。シャオユイは金があればいいさ、30元ですというと、若者は高いから安くしてくれないかと言い出す「そしたらとっておきのネタを教えてやるぜ。・・・君達の兄弟を見たよ」「何の兄弟だ」「この前、腕を切った奴さ」「何だって。シャオミンの事か」「何日か前、新公園に行った時にね。凄く汚れていたよ。浮浪者のようだった。僕がここに来る時、男と一緒に安宿に入ったよ」「本当か」「勿論本当だよ」アチンはすぐシャオミンを迎えに行くと言って出て行った。

シャオミンは眠っていた「シャオミン。いつ戻ってきたんだ。服を着て帰ろう」「僕にかまわないでくれ」「なぜこんな自分を弄ぶようなことをするんだ」「いけないの。自分のことは自分でやるよ。ほら、2百元。寝てるだけで何もしなくていいのに、何がいけないんだ」アチンはシャオミンを叩いた「帰るんだ」「チャンさんは僕がいらない。父さんも僕がいらない。僕はどこへ行けばいいんだ」泣き出すシャオミンをアチンは優しく抱き寄せた。

アチンはシャオミンを老爺子の家へつれて帰った。傷ついたシャオミンの寝顔を見て老爺子はそっと頭を撫でるのだった。

シャオミンも「安楽郷」で働き始めた。アチンがジュースや酒を作りシャオミンはそれを運んだ。シャオミンがふと見ると店の端にチャンさんがいるではないか。チャンさんもシャオミンがいるのに気づいた様子だ。シャオミンはチャンさんが気になってしょうがない。アチンもチャンさんがシャオミンのさばに寄って話しかけるのを見た。だがシャオミンは黙ってカウンターへ戻ってきた。

老爺子は今日も孤児院へ行こうとしていた。アチンはついてこなくていいですか、とたずねる。「この3年間ずっと行きなれたよ」「3年間毎週行っているのですか」
雷が鳴り雨が降りそうだった。アチンは老爺子に傘を渡した。

夜には本降りになった。雨の中、安楽郷にロンズがやって来た。
「アチン」「ワンさん」「君がここにいると最近知ったんだ」「何か飲みますか」「そうだね。じゃブランディをくれないか。アチン、最近どうしてるの。ずっと君を探していたんだ。君の事が気になって。ここの酒はいいね。仕事はどうなの。」「なかなかいいですよ」「バーテンの仕事は面白いかい」「ええ、おかしな人もいるし」「そうか、僕もニューヨークで2年間バーテンをやっていたよ。客は年取った浮浪者か家出した少年だった」「タバコは」「いいね。アチン、あの日、何故黙って出て行ったの。僕の言ったことが何かいけなかったかい」「いいえ」「じゃ」「僕達は友達で充分だと思ったんです。あるいは兄弟のような感じでも」「僕達はそんな風じゃなかったのかな。君は僕が本当に君の事を好きだと知っているだろ」「知っています」「じゃなぜ、何故なんだ」「僕が彼じゃないから。僕は、あなたがアフォンを守りたかったのを知っています。あなたがアフォンの面倒をみたかったんだと。でも僕はアフォンにはなれません」
ロンズの顔に全てを理解し愕然となったことが見えた。何も言えずロンズは席を立った。アチンはロンズが傘を忘れて行ってるのに気づき後を追った。どしゃぶりの中をロンズは帰りかけていた。「ワンさん。あなたの傘です」ロンズに傘を渡し、アチンは再び土砂降りの中を店に戻った。

店に戻りアチンは歌を歌った。ロンズへの思い出を振り返るように。
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2006年02月20日

[薛/子]子(ニエズ)第十七集 安楽郷 後半

「安楽郷」に通ってくる龍王爺は日本行きの船の船長だ。シャオユイは彼の側に座って相手をした。
龍王爺は海の上での怖い話をしてシャオユイを怯えさせた。楊教頭がシャオユイに首尾を聞く。シャオユイはしっかり龍王爺に話をつけていた。楊教頭はにんまりし「後は私が値段の交渉をしよう」と座り込んで龍王爺の機嫌を取り出した。

アチンが老爺子の家に一人でいると、呉さんが帰ってきた「呉さん、怪我はよくなりましたか」「ええ、すっかり。老爺子はまた孤児院へ行ったのですね」「はい」
呉さんは台所へ言って料理の準備をしながらアチンに言った。「坊ちゃまが逝ってしまってから老爺子は一人ぼっちでした。本当にかわいそうでした。今、あなたのようないい子が付き添ってくれて彼はうれしいことでしょう。そうだ、来月の18日は老爺子の70歳の誕生日です。この十数年、私は彼に誕生日のご馳走・寿面を作ろうとするのですが、頷いてくれないのですよ。アチン、あなたの師匠に話して、この機に70歳のお祝いをみんなで賑やかに騒いでくれませんか」「いいですとも。その時は師父に言って賑やかにやりましょう。呉さんも来てください」「私は行けませんよ。もし私が教えたと知ったら、一ヶ月は怒られます。そうだ、私は朝市でスズキを2匹買ったんですよ、これを煮て栄養をつけさせましょう」「じゃ手伝いますよ」

老爺子は花を飾った。壁には彼の若くして亡くなった息子の写真が飾られていた。

老爺子の70歳の誕生日に楊教頭はアチン・シャオユイ・ラオシュウを連れ、ご馳走や祝いの品を持って老爺子の屋敷を訪れた。
老爺子は孤児院へ行った疲れで眠っていた。目を覚ますと驚いた様子だった。「何をしているのだね」「今日は老爺子の70歳の誕生日ということで酒やご馳走を持ってお祝いに参ったのですよ」「楊金海、私がこういうことはしないと知っているだろう」「老爺子、私を攻めるわけにはいきませんよ、この子達は孝行したいとあなたのお祝いに来たのです。私はこの子達の邪魔はできません」「店の仕事が忙しいのに、私なんぞのために苦労をさせたね」「とんでもない」とシャオユイ。「僕達は老爺子の恩恵を受けているのです。でなけりゃ師父が今日僕達に休みをくれませんよ」これには皆笑った「そうか、君達も疲れたことだろう。今夜はみんなで一緒にご馳走を食べて酒を飲もうか。楽しんでな」楊教頭は「さあ、老爺子に叩頭するのだ。老爺子を祝福します」皆で老爺子に叩頭した。食事の準備をしてみんなで食卓を囲んだ。

楊教頭が老爺子に酒を勧めた。そして今までどんなに老爺子にお世話になったかを感謝して酒を飲んだ。老爺子も酒を飲み干した。「凄い飲みっぷりですね」「私も大陸にいた頃はよく飲んだものだよ。病気になってやめたのだ。・・・子供の数が少ないようだな。ウーミンはどうしたね。」楊教頭はややうろたえ「ウーミン。シャオミンは少し前に父親と一緒に田舎へ帰ったのです」「そうか、あの子は大変な苦しみを味わった。父子が揃ったのならそれがいい」「そうですね」「どうして急に静かになったのだ。気にせんでいい。存分にくつろいで飲んでくれ」「そうですね」「よし」とシャオユイ「ラオシュウ。じゃんけんをしよう」「よし」二人はじゃんけんを始めて勝ったの負けたので大騒ぎになった。あまりの騒ぎ方に楊教頭が叱った。アチンが気づくと老爺子はうとうととしている。「老爺子、お疲れですか」「全く年をとった。一杯の酒でもこのとおりだ。私は先に休むよ。君達は続けてくれ」立ち上がった老爺子をアチンが支えて助けた。「アチン、君も食事をしなさい」老爺子は一人で部屋に向かった。
「お前達2人がうるさいからだぞ」楊教頭が叱り付けた。

夜、縁側でアチンは一人外を見ていた。
部屋に戻ろうとしてふと老爺子の部屋を覗くと老爺子はぽつんと立ち尽くしている。アチンに気づき「来なさい。疲れたろう」「いいえ」「話したいことがある。心が傷ついたある父親の話だ。
アウェイがもし生きていたら37歳になっているはずだ。彼の母親は体が弱かったため長くなくしてこの世を去った。小さい時に母を失った一人っ子を可愛がりすぎてはいけないと特別に厳しくしつけたのだ。そして彼自身も私を失望させた事がなかった。小さい頃から競えばいつも勝っていた。プライドの高い子だった。勉強でもスポーツでも他人の先をいっていた。彼が軍校を卒業する時には250の生徒を学科でも術科でも引き離していた。長官は彼を模範となる職業軍人だと賞賛した。間もなく小隊長に昇格した。新兵を訓練する部隊へ移動した。私もその訓練の主要部分を参観した。彼は新兵からも支持されたものだ。
父親である私の喜びは形容できないほどだったよ。私がアウェイに注いだ20数年の心血は無駄ではなかったのだ。

私は彼に腕時計を贈った「小隊長に昇格して必要となるだろう。長官を失望させるな」「はい、ありがとうございます」

しかしアウェイは26歳までの命だった。彼の死は極めて悲惨なものだった。極めて不名誉な。
彼が小隊長となって2年目、ある夜彼の長官が彼の部屋で見てしまったのだ。一人の兵士が彼と共に寝台に寝ているのを。
私は知らせを受けるとその場で眩暈がした。全く思いもかけないことだった。私がしつけた最愛の息子が、模範的軍人である若者が、あろうことか彼の部下とそのような恥ずべき行為を行うとは。私はすぐ最も厳しい言葉で彼を非難する手紙を書いた。

訓練の声が響く中、アウェイは私に電話をかけてきた「お父さん、誕生日おめでとう。私は明日取調べを受けます。隊長が半日帰宅してお父さんに会ってきなさいと」「必要ない。お前が戻ってきて何をする。すでに軍法を犯したのだ。営地に閉じこもって考えるべきだ。静かに罰を待ちなさい」「お父さん、許してくださいと言えないことは解っています。あなたの顔を見れないとも解っています。でもお願いです。一度会ってください。私を打っても罵ってもかまいません」電話の中の彼の声は震えて弱々しかった。絶え間なく泣き続け、私の輝く勇姿の青年軍人ではなかった。私の怒りの炎は余計に燃え上がった。「泣くのは許さん。それでも男か。自分のやった事は自分で引き受けねばならん。お前が何を言おうとお前には会いたくない。聞きたくもない」私の58歳の誕生日、私の傲慢な性格のために一人息子のフー・ウェイが責任を取って自らの命を終わらせたのだ」訓練中の兵たちが駆けつけた時に、アウェイの側には父親からもらった腕時計が置いてあり、彼は自分の頭を銃で打ち抜いていたのだった。

「アチン、君が私の家に来てしばらくたった。私は君を身内と思っている。君の父親はかっとなって君を家から追い出したのだ。
だが、私は信じている。彼はきっと私と同じで自分の愛する息子のために苦難を嘗め尽くしているのだ」
アチンの独白「老爺子の曲がった後姿を見ていて僕はあの中秋の夜の父親を思い出した。勲章を僕の服の襟につける時の厳格な表情を。家を離れてこの数ヶ月、僕はますます感じていた。父親のあの山の如き重々しい苦しみがいつも僕の心を押さえつけた。僕は考える事すらある。僕はもともと彼に追い出されたのではない。僕が自分で逃げ出すように仕向けたのだ。彼は悲しみで不本意な思いを担うことができなかった。僕と母親は2人とも勇気がなかったのだ。彼の憔悴しきって衰えていく顔を正視することの。

原作:白先勇 監督:曹瑞原 出演:柯俊雄(李父)柯淑勤(李母)范植偉(李青)張捷(幼年李青)楊祐寧(趙英)金勤(小玉)阿鳳(馬志翔)龍子(トゥオ・ゾンファ)楊教頭(丁強)呉敏(張孝全)老鼠(呉懐中)林義雄(林茂雄)李昆(老周)
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2006年02月18日

[薛/子]子(ニエズ)第十七集 安楽郷 前半

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「安楽郷」をオープンしてにこやかな面々。左の写真、左からアチン、ラオシュウ、楊教頭、シャオユイ。

楊教頭たちが作った「安楽郷・アンルーシャン」がオープンした。
中ではアチン達が働き、新公園に集っていた同志達がお客として集まり繁盛した。

お金持ちの盛公もやって来た。楊教頭が「シャオユイ、盛さんがおいでだ。早くブランデーを」シャオユイは急いでブランデーを運んでくる。
「金海、これで君のかねてからの願いがかなったな」「全て盛さんのおかげです」「どうぞ盛さん」盛公には連れがあった。「紹介しよう、こちらは龍王爺。翠華号の船長だよ」「翠華号、それは凄い」と楊教頭は感心する。「ボーチー湾から日本へ石油を運ぶ船ですね」「ホントに」とシャオユイは目を輝かせる。「龍さん、私はシャオユイです。どうぞよろしく」と日本語で話しかける。龍王爺も「どうぞよろしく」と答えた「楊師父、どこからこんな綺麗な子を探してきたのだね。とても綺麗な目をしている。忙しくなければ、座って話でもしよう」
すかさず楊教頭はシャオユイに目配せしてこっそり「この魚を逃がすわけにはいかんぞ」「師父、安心して。僕は龍王爺の玉をしっかり捕まえて放さないから」「よし」
シャオユイは龍王爺船長の横にすわりブランデーを注いだ。「どうぞ」龍王爺船長はすぐには受け取らず「飲ませてくれないか」これにもシャオユイは全くひるまず「いいですとも。コップで飲ませましょうか、それとも口移しに飲ませてあげましょうか」「この子は面白いね」龍王爺船長はすっかりシャオユイが気に入った様子だった。

アチンの独白「興奮と共に感情もかきたてられた。またアルコールが入るとこの巣窟の中は皆がかたまり、あるいは対になり互いに打ち明けあった。人の道から外れた隠された苦しみを見せ合ったのだ。
たとえあらわにできない苦痛や哀愁を持ってはいても互いの笑い話にしてまたは楽曲に閉じ込めてしまったのだ。

別の日、楊教頭はアチンを連れてフー老爺子の家を訪ねた。門を開けたのは老爺子自身だった。彼の身の回りの世話をしている呉さんは市場に行く途中転んでしまって足を脱臼してしまったのだ。医者によると彼女は一ヶ月は休養をとらないといけないらしい。
楊教頭はご挨拶に伺ったのです、と言った。老爺子は従ってきたアチンに「仕事はどうだね、大変だろう」「いいえ、老爺子。もし時間があったらどうぞ老爺子もおいでください」「思ってはいるのだが、年をとるとうるさいのがどうもね。さ、中に入って」
応接間に入るとテーブルの上が埃だらけだ。呉さんがいない数日で酷く散らかってしまったのだ。楊教頭は断ろうとする老爺子を説得しながらアチンに掃除をさせた。「ありがとう、アチン」「何でもありませんよ、老爺子」楊教頭は「そうだ、このままじゃ不安です。アチンは若いし、頼りになります。彼をここに泊めて呉さんの代わりにお世話をさせましょう」「いけないよ。アチンは夜はまた仕事だ」「18・9歳の子供です。牛のように強いのですから大丈夫ですよ」「煩わせるわけにはいかない。気持ちだけ受け取っておくよ」「実はアチンは最近、大家に追い出されたのですよ。住む家がないんです。老爺子、もしあなたが嫌でなければ、この可哀想な子を泊めてやってください」「アチン、本当なのかい」アチンは突然師父に言われた言葉に合わせて「そうです、老爺子。大家さんが最近家賃を上げたんです。僕は払えなくて。もし老爺子が僕を引き取ってくださればとてもいいのですが」「そうなのか。よし。ただ、君のような若い人が私のような老いぼれとこの部屋にいるのは慣れないだろうよ」楊教頭は「この子はずっと家を離れてあちこち放浪しているのです。もし老爺子がここにおいてくださるなら彼は幸運ですよ。アチン、お礼を」「ありがとうございます、老爺子」

アチンはリーユエの家へ戻って引越しの準備をした「君のハーモニカ、忘れないで」とシャオユイは差し出した。アチンはそれを受け取った「ありがとう」「よし、いこうか。どうしたの。苦海から離れたくないのかい。大きな家に住むんだろ。離れがたいかい」「いや、行くよ」
アチンが家を出ようとするとチアンニーを抱っこしたリーユエが立っていた「私は他人じゃないからね。また戻ってきてね」「わかってるよ」

老爺子はアチンを部屋に案内した「この部屋はもともと、私の息子のアウェイが住んでいたのだ。これらのものは彼がのこしていったものだよ。必要なら使っていい」そして押入れから洋服を取り出してアチンに着せた。「アウェイの服は大部分、他人にやってしまって、いくつかが残っているだけだが、この冬には充分だ」「ありがとうございます」「アチン、ここに越してきたのだから自分の家のようにして畏まることはないよ。もう遅い。風呂に入って早く寝なさい」

アチン独白「新しい場所に移って眠れなかったのかもしれない。壁越しの部屋の老爺子もゆっくり眠ってはいなかった。2・3回起きてはトイレに行った。足音が屋外の蛙の鳴き声を伴って近くから遠くへ遠くから近くへ聞こえた。母親が家を出てから僕はいつも暗闇の中で、父が行ったり来たりする足音を聞いた。切実で重々しく閉じ込められた獣のようだった。鉄の檻の中で止むことなく回り続けているのだった。

朝、アチンが起きてくると老爺子はすでに目覚めて応接間に座っていた。アチンは朝食の準備をした。その様子を見て老爺子はいつも台所をやっていたのかい、と聞いた。
「僕は以前夜間校で勉強していてたのです。ほとんどのご飯は僕が作っていました。父は面が好きでよく肉醤をちょっとまぜて食べました」
老爺子は聞いた「君のお父さんは抗戦の時、団長だったのだね」「でも台湾に戻ってからは解雇されたのです」「どこの兵団だったか知ってるかね」「よくは知りません。ただ父が言ったことは覚えています。彼らの兵団の司令はチャンガンと呼ばれていたようです」「チャンガン兵団か。抗戦の時はとても目だっていた。特に長沙での戦いは素晴らしかったが、あの兵団の運勢はよくなかった。君の家には他には誰がいるのだね」「いません。母と弟は亡くなったのです」「君の師父が言っていたが、君達、父子はうまくいっていないのだな。君の父親は怒っているところなのだ。彼の怒りがおさまったら、戻って会ってみるといい」

「安楽郷」で開店の準備をしていた。
「アチン、老爺子の家に住んでうまくやっているか」「はい師父。老爺子はとてもよくしてくれます。彼の息子の部屋に住まわせてもらってます」「ほら見ろ。老爺子の所に住めば、食事も住居もあり、天国に住んでいるようなものだ。だろ。お前はよく気がきくからいつもまめにしてあげて、師匠の面目がつぶれるようなことはしないでくれよ」「解りました、師父。僕が出る時は床を拭き終わり、台所は洗い終わり、昼ごはんも僕が作りましたよ」「私はお前に真心を持ってすることを望んでいるよ。よくあの方に仕えて夜寝ている時死なないように眠りを浅くしてくれ」「解りました」「老爺子がお前に不満があったらすぐに取り替えるからな」「はい」ここでシャオユイが割って入って「彼に代わりに僕を行かせてよ」「お前はダメだ。お前は口がうますぎる。お前は盛さんの機嫌を取ってこい。老爺子は生真面目な人だ。お前が取り入ってはいかん」「真面目な僕より誰が真面目か言ってくださいよ。僕がもし老爺子の面倒を見たら、息子より親孝行ですよ」「わかったわかった。お前にはそれより重大な任務がある。あの龍王さんには価値がある彼は来るたびにウイスキーをたくさん召し上がる。肴はおまけしておくんだぞ」「解りました」アチンは「何故彼はそんなに特別なんですか」シャオユイは「君は師父の計算がわからないんだよ。彼は僕の色仕掛けに頼って龍王さんに我が安楽郷の洋酒の密輸を頼もうとしているんだよ」これには師父も驚き「お前・・・お前はそんなことを。わかっていたとはな。凄いもんだよ」そして楊教頭はラオシュウに床を磨けと叫んだ。
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2006年02月17日

[薛/子]子(ニエズ)第十六集 結婚 後半

ホテルで林さんは帰り支度をしている。シャオユイはそれを手伝っていた。
「シャオユイ。このパーカーの万年筆は私が5年間使ったものだ。君に記念としてあげよう」
「ありがとう、林さん」「そうだ、この金もとっておいてくれ。もう秋だ。着替えをいくつか買うといいよ」
「いりません」「私は行かねばならない。君はまだ遠慮するのだね。お金が必要でないなら、とって置けばいい。将来、日本へ来る時に要るだろう。取っておきなさい。しばらくの間、付き合ってくれてありがとう」「そんなこと言わないでください。僕があなたにありがとうと言うべきなんです」
林さんはシャオユイの肩をぽんぽんと叩くと「時間になってしまった。行かねばならない」
林さんとシャオユイは部屋を出た。エレベーターに乗り階下へ降りる時、シャオユイは泣き出した。
林さんの肩を抱きしめ泣き続けた。林さんはやさしくシャオユイの腕に触れた。

シャオユイは自分の部屋に戻り2段式のベッドで寝ている。下の方にアチン、上にシャオユイが寝ているのだ。
アチンはもう眠っているが、シャオユイは眠れない。
「アチン、アチン」「ん?」眠そうな声だ。「アチン、眠れないよ」「なら本でも読めよ」「もう試験はやめた。入学試験も受けないよ」「何言ってるんだ。僕はどんなに君の補習に時間を使ったと思う?」
「薬工場にももう行きたくないよ。僕が会社に行くのも、勉強も全部、林さんの歓心を誘うためだ。
今はもう彼は行ってしまった。僕は何をすればいいんだろう」「でも君は言わなかったかい。
会社でよく働いたら、日本へ回してもらえるのじゃないかって」「それじゃいつまで待たなきゃいけないのか。僕の先輩があんなに多いのに、僕にはもう回って来ないよ」「君がそんなじゃ林さんが知ったらがっかりするぜ」「かもしれないね。でも僕は林さんとしばらくの間、一緒に過ごしたんだ。
本当に楽しかったよ。今まで彼のように僕をいとおしんでくれた人はいなかった。まるで父親が子供に接するようにね」「じゃ、君はこれからどうするつもりなんだ」「また公園のつきあいに戻るさ。新しい口座を探す方法も考えなきゃ。でなけりゃ自分一人の力じゃどうやって日本へ行けるだろう」
「じゃ老周は」「僕はもう彼とは会わないよ。彼は僕を気にかけていないようだし、僕もずっとこんな風に
彼を大目にみてやるわけにはいかないよ」「ふうん、どのみち君は考古学専門だ。骨董品見つからないことはないだろう」
「見る目は常に持っているよ」「よし、じゃ早く寝ろよ。もう夜が明ける、寝ろよ」二人は目をつぶったがシャオユイは静かに嗚咽をもらした。アチンは気づいて優しく話しかけた「シャオユイ、泣くなよ」
それを聞いたシャオユイはますます泣きじゃくるのだった。

次の日、リーユエは大忙しだった。髪にカラーを巻きながらチアンニーに「アイラブユー、ダディ」と覚えさせようと躍起になっていた。アメリカ人のパパの写真を見せながら、懸命に仕込み続けた。
次にまだ眠っているシャオユイ・アチンを叩きおこして「今からチアンニーを連れてアメリカのパパを迎えに行くから、あなた達2人は掃除をしてちょうだい」まだ眠いシャオユイは「彼はあなたを愛しているから部屋が綺麗かどうか気にしないよ」「私にくどくど言わせないで。
私はいつもあなた達によくしているでしょ。あなた達は私によくしてくれないの」
仕方なくリーユエはシャオユイにお金を投げつけた。とたんにシャオユイはにやりとして
「お姉さん、そんなお気遣いなさって」「その百元の目的はあなた達二人に部屋の掃除をして
すぐに出て行ってもらいたいの。少なくとも2日以上は戻らないで。解った?」
「これくらいの金であなたは僕達二人帰るべき家のない美少年を道端に眠らせるつもりなの、ねえアチン」
「この吸血虫」リーユエは再び金を投げつけた(この時のシャオユイの顔が可愛い)これでたりないなら公園で大魚を捕まえてよ、と叫ぶとリーユエはチアンニーを連れてアメリカ人の恋人を迎えに出かけていった。

アチンとシャオユイは腕を吊るしたままのラオシュウを連れてローラースケート場へ遊びに行った。
ラオシュウは滑られないのでつまらなそうだが、アチンとシャオユイはさっさと靴を借りると
滑り始めようとする。「お前達、少しの同情心もないのか。兄貴だって僕を叱らないだけじゃなく桃の煮たのやスープを飲ませてくれるんだぜ」「それで満足だろ」とシャオユイ「また怪我が治ったら、元に戻るさ」「彼がもしまたぶってきたらきっと反抗するさ。そしてこっそり抜け出すよ」「できないさ。お前は僕達の靴を見ててくれよ」
2人で滑りながらシャオユイは話しかけた「アチン、長くロンズを訪ねてないね。ホントにもう行かないつもりなの」
「僕は彼と合わないんだ」「なぜ、合わないの」「彼は彼の心の全てで見守ってあげられる人が欲しいと
考えているんだ。ただ僕じゃない」「でも僕は思うよ。君は心の中でとても彼のことを気にしているんじゃないかって」
「そうかな」「そうさ。君がそうやってると無理して遊んでるんじゃないかって思うよ」
そこへラオシュウが腕を吊ったまま滑ってきた。そしてシャオユイの肩を借りながら遊び始めた。

楊教頭は家へ戻った。開店前の店に娘の婚約者が訪ねてきているのだ。彼の妻によると一言も話さないらしい。
楊教頭は妻を向こうへ追いやると婚約者を店の椅子に座らせ話しかけた。
娘の小真は自分のことを話したかと。婚約者は十数年前に家を出て行ったこと意外はよく知らない、と言う。
教頭は「私達は家族となる。君を騙したくない。私が家を出たのは妻を愛していなかったからだ。私は一人の男性を愛していた。その時、あの子を作ったため両親が結婚の段取りをつけた。小真が大きくなるのを待って、私はもう騙していけないと思った。私は事情を打ち明ける決心をした。私は大きな代価を支払った。私は家庭を失い妻子を失い、娘の私への尊敬を失ったのだ」」
「何をおっしゃりたいのですか」「私の立場に立ってくれ。私は君に小真と一緒になってもらいたい。
結局私は無責任な父親だ。ただ君達の子供には頼れる父親があって欲しい。何も言えはしないが、よく考えてくれ。
私のようにはならんで欲しい。一生、後悔と不満の中で生きていかなければならない」
楊教頭の言葉を妻もこっそり聞いていた。

リーユエはアメリカ人の恋人と再会していた。「私のこと考えた」「毎日想っていたよ」リーユエは恋人を抱きしめその胸の中で思案にくれていた。

そこへシャオユイとアチンが入ってきた。リーユエは約束が違うと2人をつつく。「にもつを取りにきただけだよ」
シャオユイは平気でアメリカ人に挨拶する「ハロー。私はシャオユイです。彼女の弟です。台湾へようこそ」
と英語で話しかける。リーユエは表情で出て行けと合図する。なおもからかおうとするシャオユイをアチンが引っ張り出す。
リーユエは恋人とチアンニーを連れてピクニックへ出かける。
アチンはその様子を語る「リーユエ姉さんのもっとも幸福な場面だった。小チアンニーと大チアンニーはアメリカ映画の父子のようだった。芝生の上で遊び戯れていた。
ただ、彼女は知っていたんだ。この幸せは長くは続かないと」
夜、リーユエは恋人の姿が見えないのに気づいた。彼はこっそり電話をしていたのだ。
リーユエは彼の手から受話器を取り上げ「誰?」と聞いた。リーユエは言葉が出なかった。

リーユエは部屋の中をめちゃめちゃにして暴れた。リーユエのおばであるシャオユイのママと友達が彼女を抑えるためにやってきていた。
「大騒ぎは終わった?彼に良心がないならもう別れるでしょう。解った?でなきゃ泣いても何もならないわ」
「彼がこの前、私を捨ててアメリカへ戻った時、私には解っていた。私は彼とは一緒にいられないって。
でも彼は戻ってきた!私に愛してると言ったのよ。結婚すると言ったのよ。私とチアンニーをアメリカへ連れて帰ると言ったのよ。彼は私を騙したの。私を騙したのよ!彼は元々結婚していたの、また戻ってきて私のお金を奪ったのよ。恥知らず、恥知らず!」
友達はリーユエに話しかけた「とっくに警告していたわ。あいつの話は元々信じられなかった。でもあなたは聞かなかった」シャオユイのママが友達を諌めた「あなたは慰めに来たの、罵りに来たの」
そしてリーユエに話しかけた「リーユエ、これは私達の運命なのよ。私達は
運命と思ってあきらめ、見破らなきゃ。でなけりゃこれからどうするの。ほらおばさんだってあなたよりよくないわ。18年よ。子供のため、チアンニーのため、強くなるのよ。解った?もっと強くなるのよ」
「私、強くなるわ、強くなるわ、おばさん」泣き崩れるリーユエをおばさんは抱き寄せた。

楊教頭の娘・小真のための結婚式の準備が進められていた。
アチンの声「リーユエ姉さんの美しい夢はやぶれさった。しかし桃源春餐館では婚礼が大規模に行われようとしていた。師父の力説に小真の恋人はついに家族を説得し、小真の嫁入りを決めたのだ。
教頭の指示に従ってアチン・シャオユイ・ラオシュウが準備を手伝っていた。
「客人は来た時に祝儀を出すものだ。アチン、ご祝儀を守ってくれ、一歩も離れないように」


そこへ大金持ちの映画人・盛公が到着した。シャオユイが早速出迎える。「盛さん。ようこそ」盛公は楊教頭に声をかける「金海、めでたい日だな」「おいでいただいて光栄です」
シャオユイは「盛さん、こんなに早くきてくださって。料理は少しお待ちを」「お前は私がひもじいとでも思っているのかい。私が早く来たのは君の師匠にお祝いを上げるためだよ、おめでとう」とご祝儀をくださる。
「いやいやとんでもない。きていただいただけで大変な名誉です」「遠慮せずに」「いや、そんなつもりは。こんな厚いお祝いをくださるとは」「君も私みたいに損をしてはいかん。私の一生はご祝儀を出すばかりだ。もらった覚えがないよ」「なんとおっしゃいますやら」「私達の周りを見回してもあんたほど運がいい者はいないよ。岳父に昇格したばかりか孫までいるのだから」
シャオユイが盛公を席に連れて行き、楊教頭は分厚いご祝儀を胸にしまいこんだ。

楊教頭の細君がすっかりおなかの大きくなった娘に付き添っていた。花嫁姿が可憐だ。「きをつけて」「ママ、ホントに目立たないかしら」「お前の腰はもともと細いから、誰も注意しないよ」「それじゃ目立つわけね」と言って小真はしきりにおなかを気にする「忘れる所だった。ママがあなたのパパに嫁いだ時パパのお父様が私に玉環をくれたの。大陸から持って来たとても値打ちのあるものだそうよ。あなたが今嫁ぐのだからママがあなたに送るわ」「ここにどうしてひびがあるの」「ママとパパが離婚した時、ママが怒って地面に叩きつけたのよ。そうだ、電話を取り付けたのよ。お嫁に行ってもし何かやりきれない事があったら電話をするのよ。心の中に溜め込まないで。解った?」「ママ、安心して。シャオシュウは私にとてもよくしてくれるわ」そこへ父・楊教頭がやってきて娘を綺麗だと褒めると母親は「娘は綺麗に決まってる。最もいいのは次に生まれるのが女の子になることね。でなけりゃ祖父のようになって面倒だわ」「何だと。女の子が女の子を好きになる事だってあるんだぞ」「私の孫を呪わないで」「お前の孫だと。お前の孫はわしの孫だ」小真が間を割って「ケンカしないで、あなた達の娘が嫁いでいくのよ。まだケンカするの」そう言うと小真はおなかを押さえて呻いた「どうしたの。生まれそうなの」「何でもないわ。おなかを蹴ったのよ」「そら見ろ。このおチビちゃんはおなかの中でもやんちゃだ」「彼はね、あなた方に抗議しているのよ」と小真はピシリと言う。
そこへシャオユイが「師父、フーさんがおいでになりましたよ」楊教頭は「フーさんが。出迎えなければ」と言って会場へ急いで戻った。
フーさんは皆から老爺子と呼ばれている。皆が警察に捕まった時に救ってくれた恩人だ。
みんなで手厚く歓迎した。そしてフー老爺子を盛公に紹介する。
盛公は老爺子に「私達には計画があるのですが、どうかフーさんにご指導願いたいものです」と言う。付き添いをしていた呉さんが老爺この身体を心配して文句を言うが、楊教頭は「実は新公園はあまり安心できないのです。警察の行動が気になって。そこで盛公が私達にアイディアをくださって南京東路に場所を見つけ、バーを開く事にしたのです。一つは安心のため、一つはアチン達仲間がお金を稼ぐ道ができる」老爺子は「その考えはいいね。私に何ができるのかわからんが」「何でもありません。準備は整ってます。老爺子には縁起のいい名前をつけていただきたいのです」呉さんは「旦那様をわずらわすのですね」老爺子は呉さんを抑えて「呉さん、私もそのくらいはできる。以前私が南京にいた時、繁盛していたレストランがあった。“安楽郷”と言ったかな」「安楽郷。いい名前です」
アチン「この日、ついに師父は長年の夢がかなった。娘の幸福を手伝ったのだ。もはや新公園での僕らが知ってる楊教頭ではなかった。それは一人の単純で満足した誇らしい父親だった。

10月25日、台湾光復節は僕達の新しい巣窟「安楽郷」の正式な開幕となった。公園の鳥の群れがしきりに飛び込んできた。今まで公園にいなかった良家の子弟さえ公然と顔を出した。
皆が大胆に安心してこの新しい天堂に足を踏み入れたのだった。

原作:白先勇 監督:曹瑞原 出演:柯俊雄(李父)柯淑勤(李母)范植偉(李青)張捷(幼年李青)楊祐寧(趙英)金勤(小玉)阿鳳(馬志翔)龍子(トゥオ・ゾンファ)楊教頭(丁強)呉敏(張孝全)老鼠(呉懐中)林義雄(林茂雄)李昆(老周)
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2006年02月15日

[薛/子]子(ニエズ)第十六集 結婚 前半

兄貴にぼこぼこにされたラオシュウはアチンとシャオユイに付き添われ病院で手当てを受けた。「少し我慢しなさい。男だろう。このくらいの傷でそんな大声を出して。メンツをなくして恥ずかしくないか」
シャオユイはラオシュウに手厳しく言った「当然の報いだよ。引っ越したらと言うのに聞かないんだもの。あんな所にいたら奴隷と一緒だよ」
ラオシュウは「仕方ないよ。小さい頃から僕はウーヤーと一緒にいさせられたんだもの」
医者は「君のその手は骨折している。何日かは動かしてはならんよ。炎症止めを出しておくからな」と言って隣室へ行った。

壁にかけられた額を眺めていたアチンがシャオユイを呼んだ。「見てごらん」「何をさ」「これはあの林さんが探しているウー・チュンフイじゃないのか」それを見たシャオユイは叫んだ「ウー・チュンフイ!先生!先生はウー・チュンフイですか」「写真の上に書いてあるよ」「では林さんという人を知っていますか」「どこの林さんだね」「林茂雄」「林茂雄」「30年前のことです。あなたが台北帝大医学院にいた頃の同級生です」「勿論、知っているとも。彼は今どこにいるのだね。元気なのかね」「元気です。彼は今台湾に戻って来たばかりでずっとあなたを探しています。僕が探しあててしまうなんて」

林さんは会社で身の回りを片付けて箱につめているところだった。
「林さん」「シャオユイ。いい所へ来た。上のほうにあるバインダーを取ってくれないか」小柄な林さんは背の高いシャオユイに頼んだ。「ええ。林さん、何をしていたのですか」「本社から昨夜電話があったのだ。大阪支部に問題が起きたというのだよ。私に早く戻ってきて処理をしてくれと言うのだ」「今日すぐに行ってしまうの」「馬鹿な子だな。秘書に飛行機のチケットを取ってもらわないといかんのだよ」しゅんとなったシャオユイを見て林さんは優しく言った「心配しないで。何もかも終わったわけではないよ」「でも僕あなたと別れるのが辛いのです」「私も君とは別れたくないが、東京に君を連れてはいけない・・・」「いいんです。林さん。言われなくても僕にはわかります。あなたはいつかまた戻ってきてくれると」「会社に言っておこう。台湾での任務は私は遂行したと。すぐには来れないだろうが」「でもあなたは自分で戻って来れますよ。休暇かその他のことで。そうでしょ」「ここの会社での君の条件をよくしておくよ。社長には言っておいた。君を彼の助手にしてくれと。給料もよくなる。そして君への学費を期日どおりに送るよ」「林さん、ありがとう」
林さんは再び片付け始めた「そうだ、シャオユイ。君は先刻慌てて駆け込んできたね。どうしたのだね」「そうだ。とても大切なことなんです。忘れてしまうとこだった。林さん、僕はあなたのウー・チュンフイを見つけました」林さんは、はっとして深く頷いた。

ラオシュウの兄・ウーヤーが渋い顔をしている所へ、楊教頭はラオシュウを連れて戻ってきた「ウーヤー兄さん、もう怒らんでくれ。彼はもう解っているから」ウーヤーは噛み付いた「何を解ったんだ。奴がどんな面倒をかけたかあんたにわかるのか」「ええ、彼女はもう逃げてしまった。あなたは彼を打ち殺すことはないでしょう。ほら、あなたが打った所がこんなに痛ましいですよ。」ラオシュウは兄に言った「ごめんなさい」「解ったよ」
師匠は急いで言った「よしほら部屋へ戻って。炎症止めを飲むんだぞ。ウーヤー。ラオシュウは何にしたって君のただ一人の兄弟だ。彼がもし間違った事をしても教え諭すだけでいいだろう。どうしてあんなになるまでぶつんだ」「あんたの話は終わったのか。よその家のことにつまらぬおせっかいを焼くのが好きなのか」
が、楊教頭が帰るとウーヤーは神妙になってラオシュウの様子を伺いに行った「ラオシュウ、降りて来い。ラオシュウ。眠ったのか?」慌てて天上の小部屋でラオシュウが寝たふりをする「晩飯は食ったか」ウーヤーは鶏肉をラオシュウの部屋の隅に置いていった。

学校にシャオユイとアチンは林さんを連れてきていた。
シャオユイは小柄な林さんに帽子を被らせてあげた「緊張しないで」
アチンが「シャオユイ、ウーさんがきたよ」「ウー先生」
林さんが振り向くと学校の廊下を通ってウー・チュンフイがゆっくりと歩いて来ているのだった。林さんの顔が明るくなる「チュンフイ」「君だ。お久し振り。離れてどのくらいたつんだろう」「30年だよ。私はずっと君を探していたんだ」「会うことができてとてもうれしい」「私もだよ」2人は手を取り合った。

2人は渡り廊下に腰掛けた。林さんが口を開く「そうだ、あの時、君は南洋へ行ったんだね。さぞ辛かったろう」「うん。今、話すのは簡単だが。しかし数十年たつのか。いつも私が当時を思い出すのはフィリピンの山の中の閉じ込められた2ヶ月だ。マラリアになってしまって。いつ死んでもおかしくなかったよ。いつもおびえてばかりだった。きみは大陸の東北だったね。きっと辛かったろうな」「あそこは氷と雪に閉ざされた場所だ。こことは全く違う。当初私は長春にいたよ。寒くて耳が落ちそうだった。足はしもやけだらけだった。少しもあるけなかったよ」「君はそこで奥さんと知り合ったんだね」「そうなんだ。彼女は望んで看護婦となったんだ。私は医官だった。そして寒さのために風邪をひいて彼女に面倒を見てもらったのだよ。終戦後、私達は一緒に東京へ行って結婚し、家を構えたんだ」「君はどのくらい東京にいたの」「そうだな。結婚してから何人かの友達と薬工場を起こしてようやく今の規模になったんだ。そしてやっと戻ってきたんだよ」「実際、私も東京に住んでいたんだ。20年くらい前だろうか。杜教授が奨学金を申請してくれて日本帝大医学院で研究をしていたんだ。私は春日に2年と少し住んでいたんだ」「春日と神田か。そう遠くはないね。思いもよらなかった。私達はかつて一つの場所に2年以上生活していたんだね。一度も会わなかった」
2人は互いの家族について聞きあった。林さんには息子と娘がいるが、ウー・チュンフイは独身だった。
「学生の頃は女の子が君を追いかけたものなのに。きっと理想が高いのだな」「若い頃か。まるで昨日のことのようだ。思いもしなかった。瞬く間にもう30年か」「そうだ、私も思いもよらなかった。生きている間にまた会えるとは」
2人は校舎へ入った「君は覚えているかい。僕達はこの教室で山田先生からドイツ語を学んだことを」「勿論、覚えているさ。あの時、君は山田先生の影響で口を開くたびにマルクスと言っていたね。社会主義によって台湾を救うというんだ」「君の記憶力は若い頃と同じだな。全く変わらない。君は小さいときからずっと成績はトップだった」
ウー・チュンフイは「我々はまるで蟻のように休まず生きてきた。しかしとても幸運だった。・・・もう遅くなった。診療所へ戻らなきゃいけない」「一緒に飯でも食わないか」「いや、あまり遅くなったら患者さんに申し訳ない」「そうか。じゃ車で送ろう」「いやすぐ近くだ」林さんは「これは私の名刺だ。いつでも連絡してくれ。日本に来る事があったら、またゆっくり飲もう」「じゃ行くよ。身体を大切に」「君もね」
一旦行きかけたウー・チュンフイは立ち止まった「知ってるかい。私が南洋にいた頃、さんざんに苦しみを舐めた。何が私を支えたのか。私達のあの頃の夢だったんだ。いつも私が思っていたのは、戦争が終われば、君と僕とで一緒に日本で勉強をして台湾に戻り、医院を開く。救世の理想だ。私の心の中にはいつもあった。私達の夢はかなわなかった。でもこの一生で君、林茂雄をこの親友を忘れた事はない」ウーさんは礼をした。林さんも礼を返した。
そして2人は別れた。子供のように泣く林さんをシャオユイは抱きしめた。

アチンは思う「二人を見ていると30余年別れていた親友が、得意然としていた少年だった頃から白髪交じりになった今まで二人は確かに夢を築いていたのだ」
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2006年01月26日

[薛/子]子(ニエズ)第十五集 弟の思い出 後半

アチンが連れてきた口の利けない少年はリーユエの息子チアンニーと向かい合って笑った。
突然少年がいる事に気づいたリーユエは驚きアチンに問いただす。
「うちは収容所なの。こんなどこの子かもわからないのに連れてきて」アチンは夜中に一人で公園にいたので可哀想になったのだ、と言うと「今はもう昼間だわ。彼を送っていってあげて。私は警察から誘拐したのか聞かれたくないわよ」アチンが家がわからない、と言うとリーユエは少年から聞き出そうとした。が、何度訊ねても答えないのでリーユエも気づいた、彼は聞こえないし、話せないのだと。彼女は喚いた後、後悔してあやまった。「ごめんね、おばちゃんが牛乳をあげるわ」しかし牛乳はすでに昨夜アチンが男の子に与えてしまった。リーユエは再び怒り出した。「マンゴーもないわ。明日買ってきて返してよ!アチン、よく聞いて。あなたは面倒を起こしているわ。自分で解決方法を考えて。彼をどこに連れて行くかは問わないわ。警察もよし、孤児院もよし。つまり私はこの子の面倒は見たくないの」「そんなこと言わないで、リーユエ姉さん。あなたはとてもいい人だもの。もう暗くなったし。できれば彼をここに泊めてもいいかな。明日はきっといい方法を考えるから」「ダメよ。あなたとシャオユイという二人のオカマが私の家に住んでるのよ。それだけでも充分よ。またこんな口の利けない子を連れて来るなんてとんでもないわ。あなたはまだ先月の家賃も入れてない。自分のことも保障しかねるのに人を引き取ってまた貸しするつもりなの。警告するわ。自分の身を滅ぼしかねないわよ」「わかった。今夜必ずお金を集めて部屋代を納める」

男の子はアチンのベッドで寝たが朝起きるとおねしょをしていた。アチンは「こんなに大きくてまだおねしょか」と怒った。
男の子はアチンの怒りを察して固まって泣きそうになっている。それを見たアチンは急に可哀想に思いお菓子を取り出し食べて見せた「美味しいぞ、食べてごらん」男の子はややためらいそして食べた。アチンは男の子をぽんと叩くと「わかったか。もうおねしょはだめだぞ」

リーユエは手紙を読んでいた。アチンは部屋代をもう少し待って、と頼んだ「いいわ、今機嫌がいいから。この2日以内にね。アチン、どうするつもり。早くその子をどうにかして。アメリカの旦那が帰ってくるのよ」「アメリカの旦那?いつ?」「来週よ。シャオユイにも言っといて。ふたりともその時は出ていて欲しいの」アチンは了解して出かける間男の子を預かって、と頼み込んだ「いいわ」アチンは外出した。
リーユエは一人取り残された男の子を見て「こっちで遊びなさいよ。ほら飛行機よ。ちびと遊んであげて」と声をかけた。

アチンは師匠に洋服店のライ社長に引き合わせてもらった。アチンの仕事を探してくれたのだ。ライ社長は姿のいいアチンを非常に気に入ったようでしきりと触りたがる。「いい体だね。ウエストのサイズは?はかってあげようか」「ライ社長は洋服をくださるそうだ。あなたは本当に気前がいい。あなたの店の服は高価ですからね。私はちょうど来月娘が嫁ぐのに洋服がないのですよ。話は決まりですな」社長は「君を店に連れて行ってみようかな」と言いながらアチンの太ももを擦り上げた。アチンは社長の腕を掴んで乱暴にテーブルの上に置くと「師匠、じゃ僕これで」と言って立ち去った。ヤン教頭は「子供ですから」と言って笑った。

アチンはリーユエに部屋代を渡した。「これで追い出さないでね。マンゴーも買ってきた。一つはあなた、残りは僕とちびクンが食べるよ」「アチン、ちょっと来て。話があるの」「解ってる。まだ牛乳が足りないって」「牛乳はいいの。座って。話す事があるの」「何か困ったことなの」「あの子ね。チャンニーを怪我させたの。私がいない間にボールを取り合って。あの子がチャンニーを押して机の角にぶつけたの。こぶができたのよ。泣き叫んだわ」「そうだったのか。僕が叩いてくるよ」「いいのよ。私がもう彼を送りだしたわ」「送りだした?どこへ」アチンは声を荒げた「知らないわ。取り乱して警察を呼んだのよ。警察はすぐに来てあの子をつれて行ったわ。これでよかったのよ。あなたに面倒をかけずにすむのよ」「面倒かどうかは僕の問題だ。どうして勝手に決めたんだ」「はっきりしとくわ。ここは私の家よ。私の家に住むなら私の規則は守ってもらうわ」「いいか悪いか僕に相談してくれれば」「相談はいらないわ。今日あの子はチャンニーにこぶを作ったのよ。どうして私に解るの。明日からどんな悪さをするのか」「彼は小さくてわからないんだよ。僕達が彼に教えてやれる」「どうやって教えるの。耳も聞こえないし、口も利けないのよ。頭もよくないわ。あなたは一生あの子を側に置いておくつもりなの。もし万が一彼の両親が探していたらどうするの。彼を警察に連れていっとけば少なくとも家へ帰るチャンスがあるわ」「僕の知ったことじゃない。僕はあの子を探しに行く。もし見つからなかったら、あなたに責任とってもらうからね」「アチン!」

アチンは警察にいって訊ねたが解らなかった。アチンは思った「僕はいくつかの警察を訪ねたが手がかりはなかった。茫然として街を徘徊した。秋の風が吹いていたが背中には汗が流れた。落日を見て僕はたまらない寂しさを感じていた。

シャオユイは林さんのホテルを訪れていた。林さんは日本の家族と電話で話していた。電話が終わるとシャオユイは訊ねた。「上の子が国際商社の試験に合格したんだ」「それはよかったですね。でもあなたはなんだか寂しそうですね」「それは私が家のことを考えているからだよ。私は今までこんなに長く家を離れた事がないんだ。そして長男が初めて社会に出るのに側にいられなかった。とても悪いと思っているのだ」「あなたは世界で一番いい父親ですよ。僕は本当に羨ましい」そう言ってシャオユイはうつむいた。「どうしたんだね」と林さんは心配そうに聞いた。「何でもないんです」林さんはそっとシャオユイの肩を叩いた。

ラオシュウの兄の売春宿では連れてこられて閉じ込められた女の子が化粧をされていた。ラオシュウは小窓からその様子を覗いて見ている。
化粧をしてあげていた女が「ほら、綺麗だわ」と笑う。「花嫁みたいね」と女の子もまだよくわかっていない。別の中年女が「あんたはこの子にはっきり言ったのかい」と口を出す。「何を言うのよ。言えないわ」「あんたはその子の脚を開かせるんだよ。泣きっ面はやめとくれ。お客が嫌になってしまうだろ」言われた女はしぶしぶ「もし誰かがあんたを弄んでもどうにかがまんするんだよ。ちょっとしたらすぐ終わるんだ。解ったかい」女の子は怯えだして細い声で聞いた「あなたたちは私に何をさせるの」「何でもないよ。こうやって大人になるんだ。そうだろ。おや、お前はどうして泣き出すんだい。せっかく可愛くしたのに。泣かないで」壁越しにラオシュウは聞いていた。ラオシュウには女の子がどんな目にあわされるのか解っているのだ。女の子の涙は止まらない。女達は泣くなと大騒ぎだ。
やがて女達が出て行くとラオシュウはこっそり女の子の部屋へ近づいた。そしてハンマーを使って部屋の鍵をこじ開けた。「さあ、ついてくるんだ」
ラオシュウは女の子の手を引っ張って外へ飛び出した。「君はこの道をずっとずっと行くんだよ。遠ければ遠いほどいい。解ったかい。それから絶対家に帰っちゃだめだよ」「何故家に帰っちゃだめなの」「もし家に帰って奴らに捕まったらどうする」「でも私、弟が心配で」「聞いて。僕は君を騙さないよ。ほらこれを持って」ラオシュウは彼女に上着を渡した。そして持っていた金も。「持って。早く。それから警察に知らせないで。でないと兄貴がひどい目にあうわかったかい。早く行って」「ありがとう」女の子は走り出した。
ラオシュウは家に戻った。「待て」ごつい兄貴がラオシュウを呼び止めた。「あいつはどうした」「あいつって誰」「誰たあ何だ」兄貴の拳がラオシュウを襲った。ののしりながらぼこぼこにされる。
「ぶたないで」「逃げるか、立つんだ」「お願いだよ。僕はあんたの弟だ。ぶたないで」「俺はお前を育てた。お前には父も母もない。お前に食べさせ、服も着させた。俺が気にしなけりゃお前には住む場所もない。殴ってやる。俺の心の痛みがわかるか。どう教えたらいいんだ。お前を育てるのは大変だった。判ってるか。お前はどうしてこんな事をする。何故こんな事を俺にするんだ」そう叫びながら兄貴はラオシュウを殴り蹴り首を絞めた。最後にはくたびれてうずくまった。ラオシュウはずっと泣き続けた。

原作:白先勇 監督:曹瑞原 出演:柯俊雄(李父)柯淑勤(李母)范植偉(李青)張捷(幼年李青)楊祐寧(趙英)金勤(小玉)阿鳳(馬志翔)龍子(トゥオ・ゾンファ)楊教頭(丁強)呉敏(張孝全)老鼠(呉懐中)林義雄(林茂雄)李昆(老周)
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2006年01月25日

[薛/子]子(ニエズ)第十五集 弟の思い出 前半

父母の肖像画を見ながらロンズはアチンに聞いた「アチン、君は将来、何をするつもりなんだい」「元々は僕の父の意向で軍校に行こうとしていたんだけど、全部ダメになったんだ」「まだ勉強を続けるつもりはあるの」ロンズはアチンに勉強を続けるよう勧めた。学校には行かせてあげようとも。「本当にすべきことは何かよく考えるんだ。でなければいつまでも公園の中で交わっている事になる」「でも僕はあなたのお金を使いたくないよ」ロンズはではお金を貸す事にしよう、将来仕事についたら返してくれるといい。アチンはよく考えさせて、と答えた。「しかし早いほうがいいよ。でなければまた1年浪費する事になる」そういってロンズはアチンに家の鍵を渡した「ここに越してきなさい」「あなたは怖くないの。僕はあの外国の子供と同じかも」「僕は今まで彼の面倒を見て後悔したことはない。さあ、いつでも君が帰ってくるのを待つよ。ここは君の家だ」

アチンとロンズはまた家の掃除をしながらふざけあった。どちらともなく雑巾をぶつけ合い。バケツの水をかけあって廊下を水浸しにした。通りがかったフォン爺がそれを見て微笑んでいた。
またある時は木陰でフォン爺が笛を吹きロンズが歌を歌ってアチンがぼんやりとそれを聞いていた。

ある夜、アチンとロンズが一つのベッドで眠っていた。アチンはもらった鍵を指で弄んでいた。と、ロンズが苦しげに言った「アフォン、アフォン」夢を見ているのだ。
アチンは思った、この鍵はまるで僕らの間の扉を開くかのようだ。だがこの扉は所詮ロンズの心へ簡単に入っていけるわけではない。その部屋は固く閉ざされ見る事はできないのだ、と。

書斎の本の整理をしながらフォン爺はロンズ坊ちゃまに話した。ロンズがアメリカへ旅立ってしまった後の将軍の様子を。
副官であるフォン爺が話しかけても将軍は何一つ答えず真直ぐに前を見つめていた「あなたは敵に対しても寛大だった。彼らにも父母や親しい人がいるのだと。まして自分の子に対して。私はあなたを理解しております。坊ちゃまは大丈夫です。ご安心ください」
フォン爺はその時の様子を思い出しロンズにつぶやいた「あの時、将軍はあなたに大変期待されていたのです」

ある日、ロンズの屋敷にシャオユイとラオシュウがやって来た。アチンがいない間にレコードをかけて踊っている。それを見つけたアチンは驚いて止めようとしたが二人は悪ふざけをやめない。そこへロンズが入ってきた。アチンは二人を紹介したがロンズは気のない挨拶をして出て行った。
二人が帰ってしまいアチンがロンズの部屋へ行くとロンズはアチンに参考書を渡した。
その夜、アチンはロンズの寝床を抜け出した。
アチンは思う。僕は突然逃げたくなった。そしてもう戻らない、と。

アチンは逃げ出す時、脚に怪我して痛んだ。
どこからか子供の泣き声がする。見ると幼い男の子が泣きながら男に引っ張られ連れて行かれそうになっているではないか。こんな夜更けに。
アチンはすぐ近寄った「何をしている」「何でもない。可哀想だから連れて行って面倒を見ようとしているんだよ。いい子だ、行こう」「あんたとは行きたくないって」「笑わせるな、私は金を払ったんだ」「変態か。ついて行きたくないと言っているんだ」「ルールってもんを知らんのか、お前の師匠に言い付けるぞ」「言えよ。この前、お前はラオシュウに火傷させたな。師匠はあんたを探してけりをつけると言ってたぞ」「じゃ、せめて金を返せよ」アチンは持っていた金を叩きつけた。「足りないぞ」と男は叫んだ。
アチンは男の子に「これからはこんなに遅く公園へ行ったらいけないよ。あんな奴に連れていかれる。家へ帰るんだ。バイバイ」だが男の子はアチンのあとについてこようとする。「うちはどこ?話せないのか。家だよ。眠るとこ」男の子は何も言わない。アチンははっとして男の子の手を取って歩き出した「行こう」

「お腹すいたか」アチンはリーユエの家に帰り、男の子をテーブルに座らせ、冷蔵庫に入っていた牛乳とマンゴーを与えた。男の子は美味しそうに口にする。
アチンは男の子を風呂に入れ、眠った。
目が覚めると男の子は先に起きてアチンの服を着てみせた。笑いながらアチンは昔の弟の事を思い出していた。母の愛情を独り占めしている弟からハーモニカを取り上げ肩に噛み付いたこと。寂しい時抱きしめあっていた事、ご飯も分け合っていたこと、いなくなった母を一緒に探しに行ったこと、ハーモニカをあげたこと、酷い台風に襲われた時のこと。そしてそれが元で熱が出て弟が倒れ死んでしまったこと。
小さな男の子はアチンに弟のことを思い出させた。
そしてアチンは男の子をシャオユイ・ラオシュウと共に川へ連れて行って泳ぎを教えた。その時もアチンは弟に泳ぎを教えた事を思い出させたのだ。
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2006年01月04日

[薛/子]子(ニエズ)第十四集 ニュー・ヨーク

新公園にいたところを、警察に捕まったアチン達。嫌味を言われながら、腕立て伏せをやらされた。そこへ入ってきたのはシャオミンの父親。事情を知った上で連れて帰りたいと申し出る。だが、警察は規則だからと父親を追い返そうとした。シャオミンは僕は大丈夫だからと父に言うが、父親は懸命に食い下がる。そんなシャオミンの父親を見てアチンは、失望と憤怒が入り混じった自分の父親の目を思い出していた。

やっと放免されたアチン達は師父に連れられて師父の店に行く。警察に捕まっていたと聞いてあきれる奥さん。師父に麺を茹でさせながら、師娘(奥さん)はよその子供の面倒ばかり見て、となじる。師父は奥さんに香水を振り掛けてやりながら、自分達の娘も辛い目にはあわせない、と約束する。

師父はアチン達を老爺子の屋敷に連れていった。彼らが警察から放免されたのも老爺子の口添えがあったからなのだ。
老爺子は孤児院の面倒も見てあげている心優しい老人だった。だがかなり体が弱くなっていて、夜中に持病が出て苦しむ事もあるのだと家政婦さんは胸を痛めていた。
お屋敷の綺麗な部屋に通されてアチン達は周りを見回した。シャオユイは早速、壁に飾られた青年の写真を見つける。「見て、アチンこの人かっこいいよ。師父これは老爺子の亡くなった息子でしょう」師父は行儀の悪い弟子達を叱り付けた。「マナーを守らんか」
ようやくきちんと椅子に腰掛けたアチン達の部屋に老爺子はゆっくりとやって来た。歩くのも大変な様子である。
老爺子は「今回は何とか人に頼って子供達を助けたが、金海(師父)はもっと、子供達を指導しないといけない」と言われる。師父もこれに従うよう約束する。
老爺子は子供達を見回し家政婦さんにお菓子を出すよう頼む。師父は子供達を紹介していった。アチンの名を告げると老爺子はアチンをじっと見て「君は軍人の子弟だ」当てられてアチンと師父は驚く。老爺子はアチンの姿を見て「すばらしい人材なのに惜しいことだ」と言われた。
そしてシャオミンを呼び、手首の傷を見て「痛いかね」と聞いて自分がつけていた腕時計をはずしシャオミンに渡した。シャオミンは礼を言って受け取った。

シャオミンは会社へ行くチャンさんが通るのを待っていた。シャオミンを見てチャンさんは驚く。手首の傷と警察に捕まったことを聞くが、その言葉はどうしてもそっけない。「これから気をつけるんだよ。お父さんを心配させないように」シャオミンは「僕、今日父と南部へ帰ります」突然の言葉にチャンさんは言葉を失い、腕時計を見て「もう遅刻だ。行くよ。体に気をつけて」と言った。シャオミンはさよならと告げただけだった。

列車の中で、父親はシャオミンに果物を食べなさい、と言って一人タバコを吸うために席を立った。
こうしてシャオミンは父親と南部へ帰って行った。

アチンはロンズの家を訪ねた。フォン爺が喜んでアチンを迎え、あなたが来なかったので坊ちゃまはふさぎっぱなしですよ、と言った。
アチンを見るとロンズはぱっと顔を輝かせた。「もう来てくれないのかと思ったよ。師父は怖くナイのかい」「いいえ、僕達は警察に捕まっていたんですよ。やっと出られたけど、シャオミンは父親に知られて南部へ連れて行かれました」「お父さんは知ったのに彼を受け入れたんだね。僕達と比べたら彼は幸運だったんだ」「僕もそう彼に言いました。でもなぜ僕達はこんなに笑いものにされるのか。僕達だって普通の人と同じなのに、違いますか。一生の秘密を持って永遠に口を開けない」「それが僕達の運命なのかもしれない。知ってるかい。僕の名前のクイという漢字はとても書きづらい。クイロンと言うのは古代の災いの龍だそうだ。それが出現する時は天災・洪水を引き起こすんだ。僕はいつも不思議だった。父が何故僕にこの名を選んだのか。こんな不吉な名を」

ロンズは思い出す。
アフォンを殺害した後、僕は警察からやっと出され屋敷に戻ったが、父の命令でニュー・ヨークへ行かされることになった事を。母親は一人息子を目の届かぬ所へやる悲しみで泣き崩れたが、将軍である父親は「わしがこの世にいる限り戻ってきてはならん」と言い渡した。
父親は僕を法の手から助け出し、パスポートを用意し、ニューヨークへ追いやったのだ。

僕の心は死んでしまった。
腑抜けのようになった僕はニューヨークの街角で暴力を受け、金を強奪された。僕は考える力を失っていた。時間も止まっているようだった。
自分の手首を切り、感覚があるのか確かめた。全く痛くなかった。ただ血の匂いがした。

僕はレストランで働いた。怒鳴りつけられ、働き続けた。そしてある日知覚が戻った。
寒い冬の夜に道端に座り込んでいる黒人の少年がいた。「助けて」と彼は僕を呼んだ。その姿は死んでしまっていた僕の心を起こした。地面にうずくまっているその姿を見て僕はアフォンを思い出したのだ。雨に打たれ泣いているアフォンを。
僕は少年を家に連れて帰り、食事を与え、暴力を受けたらしいからだの傷を手当し眠らせた。
しばらくして彼が寝ている部屋にはいると姿がない。少年は僕のコートを探っていたのだった。僕は優しく「怒らないよ。お金がいるなら言うといい。怖くない、おいで」だが少年は手にしたはさみを僕の胸に突き刺した。僕は血がどくどくと流れ出す胸を抑えた。
僕は完全に記憶を失っていた。知覚を失っていた。まるで高圧電流かのように僕の心を激しく揺れ動かした。刹那、全てが戻ってきたのだ。僕ははっきりと見た。自分の血が一滴一滴地面に落ちていくのを。以前の一幕一幕がまるで万華鏡のように寄せ合わされたのだ。そう、僕はこの一刃を受けるべきだったのだ。これは天が僕にくれた贖いの機会だった。

2年後、僕は父が亡くなったという便りを受け取った。突然、強烈な欲望が沸き起こった。家に帰りたい。台北に帰りたい。新公園に帰りたい。僕は蓮の花の池へ再び帰るのだ。

地下鉄のなかで黒人の男がアコーディオンを弾きながら歌を歌っていた「家に帰ろう、家に帰ろう。本当の人生は今、始まったばかり」

不思議に思うのはアフォンを殺したロンズがすぐに家に戻れる事。まあ、これがお金持ちとアフォンのような身の上の違いなのでしょうか。それと上の文では書かなかったけど、ロンズが警察から出てくる時、女学生が騒いでいる。ナンなのか不思議だったけど、これは犯人であるロンズのファンになった女の子達なわけですね。驚き。

そしてここで急に南部に帰ってしまったシャオミン。あまりのことに愕然。泣きたくなってしまいました。

原作:白先勇 監督:曹瑞原 出演:柯俊雄(李父)柯淑勤(李母)范植偉(李青)張捷(幼年李青)楊祐寧(趙英)金勤(小玉)阿鳳(馬志翔)龍子(トゥオ・ゾンファ)楊教頭(丁強)呉敏(張孝全)老鼠(呉懐中)林義雄(林茂雄)李昆(老周)
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2005年12月31日

幻の電影版《[薛/子]子》(1986年・虞勘平監督)

殺人的年末稼業も終え、やっと静かな大晦日を迎えております。
大晦日と言えば「ニエズ」別に大晦日だけの話ではありませんが、アフォンとロンズの劇的シーンが大晦日だったので。というわけで大晦日に、幻の電影版《[薛/子]子》(1986年・虞勘平監督)を観れる幸せです。

石公さん(ブログ「夜目、遠目、幕の内」)から教えていただかなければ、多分知る事もなかった貴重な映画であります。さて、期待で胸張り裂けんばかりのこの映画、且つあれほど好きになったドラマの映画版ということでそれ以上の不安がありました。

してその結果は。

非情に興味深い面白い出来でしたね。
まずはあれほど中身の濃い連続ドラマで表現されていたものが2時間の枠で映像化されるためにはこのように中身が変わっていくのかと。
数多く配置されている登場人物の役を兼ねて表現させています。例えば楊教頭が「青春鳥集」の撮影をしたグオ老人、老爺子の役を兼ねています。枝葉の部分は省略化され、あるいは象徴的に表現されているのです。

何度もドラマを観た者には何とも不思議な体験でした。
名場面であるアフォンとロンズのシーンは後ろから照らされる光のなかで演じられ舞台劇のようです。それはファスビンダーの「ケレル」を思わせるものがありました。

querelle.jpg

またアチンの父親が楊教頭を訪ねてくるシーン(ドラマではそんな場面はありませんでしたね)は「Mr.レディMr.マダム」のようでしたが(笑)

アチンたち4人組を演じている役者さんたちもなかなかよくてうれしかったです。特にシャオユイは可愛いなあ。よりいっそう小柄で女の子みたいで愛らしいし、他の3人も男の子らしい風貌で素敵でした。ロンズとアフォンも結構好みでアフォンなんてドラマとは随分イメージが違うのですが私的には好みだったりして。ロンズから刺された演出が椿三十郎みたいでした(色々な映画を連想させますが、真似と言う事でなくてあえてそれ風に演出しているように感じられたのですが)

観ていて感じたのはドラマより何だかリアルな感じがする、ということです。これは何故なのか?一つは映画の時間設定が80年代(多分)になっているためより近い感じがするためでしょうか。しかし最近撮られたドラマより生々しい感覚があるのも不思議です。見てはいけない世界を覗き込んでいる感じがするのです。
また映画の方が(知りもしないのですが)台湾という雰囲気が強く現れているように感じました。あの独特のじっとり感、雷、雨風の凄まじさなど怖いほどでした。街の風景なども見入ってしまいました。

ただ主人公アチンはドラマに比べると心理なんかがいまいちよく解らなくて急に激情にかられてわーっと駆け出す場面が少しおかしかったものです。
むしろ楊教頭の心理状態のほうがわかりやすく描かれていました。映画の主人公は楊教頭だったのかもしれませんね。

アチンが夢でお母さんを思い出すシーンがあってこれが相当怖くて変なホラーよりずっと怖いんですが、あれは一体なんだったのでしょう。思わずギャーと逃げてしまいそうでした。

まとまりなく書いていきましたが、色んな意味で凄く楽しめる映画だと思います。ドラマ「ニエズ」のファンなら必見ですね。
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2005年12月13日

Crystal Boys([薛/子]子)テレビドラマ

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yesasiaで「[薛/子]子」の映画版の紹介をしたんですが、よく考えたらドラマ版の紹介ってしてないんですよね。以前はyesasiaでも販売されていたんですが現在されてないようです。そこで「楽天市場」さんの方を紹介してみます。→Crystal Boys([薛/子]子)

はっきり言って高いですね、とほほ。その価値はある、と私は思ってますが。中文字幕はついてますが、日本語字幕はついていませんのでご注意。
posted by フェイユイ at 18:43| Comment(0) | TrackBack(0) | [薛/子]子(ニエズ) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年12月12日

電影版《[薛/子]子》

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いつもお世話になりっぱなしの石公さんのブログ「夜目、遠目、幕の内」で、「2005年11月に、幻の電影版《[薛/子]子》(1986年・虞勘平監督)のDVDとVCDが台湾で発売になっていた」という事が紹介されていて衝撃!
yesasiaでも販売されていると言う事ですが、全く気づかず、石公さんのおかげでやっと知って、今注文をかけているところです。
これとドラマ「ニエズ」を比べて観てみたいものです。わくわく胸躍る。

そして早く「ニエズ」原作の翻訳出版してくださいよお。
posted by フェイユイ at 00:35| Comment(4) | TrackBack(0) | [薛/子]子(ニエズ) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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